アイスランドが「V字型回復」をなしたが、ユーロ危機にどれほどの貢献をするか。31万人前後の人口しかない地方をはたして「国家」と呼んで良いのだろうか?
ギリシア危機が表面化する前にアイスランドが財政破綻した。
IMF管理下にはいり、倒産した三つの銀行が国有化され、あれから二年、通貨が60%も安くなれば輸出競争力はみごとに回復し、新聞はV字型回復、成功例と褒めそやす。
しかしアイスランドをはたして国家と呼んで良いのだろうか。これがユーロ危機脱出の突破口になるとはとても信じられない。
日本のアイスランド規模の人口をほこる都市は下記の十都市(数字の単位は千人)
高知(334)、秋田(333)、前橋(318)、越谷(315)、那覇(312)、青森(311)、宮?(311)、久留米(306)、四日市(303)、大津(301)。
アイスランドは地熱発電と漁業が有名だが、殆どが氷と雪に閉ざされており、観光客はすくなく、むろん日本からの直行便はない。ロンドンかコペンハーゲン経由が一般的。
面積は北海道よりすこし大きいが、人口の少なさにおいて普遍的国家の機能をもっているとは考えられず、げんに軍隊を保有せず、米国との防衛条約によって安全保障が成立し、名前だけNATO加盟国なのだ。
二年前、2010年四月、アイスランドの火山が噴火し、ヨーロッパの航空機が飛べなくなって大きな支障がでたことは記憶に新しいが、同年3月に経済危機がささやかれたおり、アイスランド政府は次のような声明をだした。
「吾々は無謀な投資のツケを支払う意志はない。吾々は人口が少なく、パワーも弱いが、近隣諸国から辱めを受ける筋合いはない」。
この声明も虚しく同年四月にムーディーズはアイスランド債権の信用格付けをBaa3(投資不的確)に格下げした。アイスランドの銀行は倒産しており、国有化されていた。
▼落ち目の北極圏資源利権を狙え!
この落ち目のアイスランドの資産を狙う禿鷹ファンドは、なにも中国だけとは限らない。
バンカメ・メリルリンチはUBSと共同幹事で、倒産したアイスランド銀行の一つ、「ランズバンキ・アイスランデ」を英国のスーパーマーケット経営者のマルコム・ウォーケーが24億ドルで買い取る準備を進めていると発表した(2012年2月15日)。
またアイスランド国民から猛烈な反感を買ったディールは中国人投資家フアン・ノボ(音訳不明)が国土面積の03%にあたる30000ヘクタールもの農地(レイキャビクから北へ450キロ)を買収しようとした事件だ。
アイスランド政府が拒否するという深刻な事態に立ち至ったが、この事件がおこったのは2011年12月のことだった。
中国がアイスランドの弱みにつけ込んで「農地」を名目に軍事監視基地を作るのではないかという観測もあがり、同国政府は「主権を尊重する意味からもかくも広大な土地が外国の管理下にはいることはいかがなものか」とした。
投資家、中国の不動産王を自称するフアンはアイスランド政府の決定に不満で「将来はゴルフリゾートを建設し、アイスランド経済の活性化に繋がるはずだ」などと嘯いた。
米誌ウォールストリートジャーナルは、この問題を特別に注目し「アイスランド以外でも太平洋の北限、将来の北極の資源を探査する目的をもつ中国の意志が働いたとしても当然であり、ファン氏は過去に中国共産党宣伝部に所属し、現在も有力な共産党党員である」と分析した(2011年12月29日付け)。
さてアイスランドの人口は318000人(日本外務省の数字)。これは我が国の前橋市がちょうど318000人、アイスランド国会は議員定数が63名。前橋市議会は43名(次回選挙からは40名に削減予定)。
大統領制の共和国で、現政権は左翼政党主導の連立。この規模の国家がV字型回復をしようが、しまいがユーロ危機の大勢には心理的ファクター以外、殆ど影響力がないのである。
杜父魚文庫
9125 アイスランドはユーロ危機脱出の突破口になりえない 宮崎正弘

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