恐怖の春節あけ、労働者の三割が職場に戻らなかった。山東省では五割もどらず工場稼働に支障、大幅賃上げせざるを得ない状況。
二、三年前まで沿岸部の建設現場が被害をもろにかぶった。旧正月があけると、地方から沿岸部へ戻ってくるはずの労働者が殆ど職場復帰せず、建設の行程が狂った。
賃上げ、待遇改善、とくに大幅な福利厚生予算の拡大と経営側への義務づけ、あるいは従業員の医療年金の充実などが法律によっても強制された。それでも過酷な労働現場に若者がこなくなった。日本と状況は酷似してきた。
昨年の旧正月明けも惨めな結果がでた。繊維産業、弱電、スポーツ用品、自動車ならびに電気の部品工場に熟練工が戻らず、工場設備の半分しか稼働しないという悲惨な現場もでた。
鴻海という台湾系のコンピュータ部品最大企業は中国国内で50万人を雇用するが、出入りが激しく、毎月弐万人が辞め、弐万人を新しく雇用する。ことほど左様に労働の移動、流動が激甚となった。
訪米した習近平は何一つ言質を取られるような発言はせず、人権、貿易不均衡、技術とりわけ海賊版対策、人民元不正操作などで前向きの発言はゼロ、主要閣僚との対談では意見を棒読みした。
米国も習の顔見せという政治ショーを優先し、オバマもバイデンもヒラリーも劉暁波の名前さえ挙げなかった。
最後の訪問地カリフォルニアまでつきあったバイデン副大統領は「もしゲームが公正に行われるのなら米中は協調できる」と執拗に主張し続けたが、これに対する反応も習近平からはなかった。
とろろが例外がひとつ、習は「これからは米国に工場がもどってくるのではないか」と言ったのである。つまりこの習発言には中国国内での深刻な労働力不足が背景にある。
▼たぶん3000万労働者が職場復帰していない
2012年二月中旬、春節の長い休みがあけた。一億人以上の労働者が、都市部から田舎へ帰って弐週間前後の休暇を享受した。
ふたを開けて河北省では60万人の労働者不足が判明した。深せん、広東省、山東省も同様で、何処も10-30%の賃上げを条件に労働者が復帰しているが、条件に改善のないところには労働者が戻らず、製造業の多くが悲鳴をあげる(もっとも広東省で目撃できるのはフィリピンの女中さん、重労働現場にアフリカ人とベトナムからの労働者、すでに広東は『国際化』している)。
「安い労賃」という中国の神話が壊れた。あまつさえ2020年には60歳以上の人口がさらに二億人増える。人口統計学的にも若者が激減し、労働市場はいまより激甚な不足に陥り、労働力確保は人件費の高騰ならびに海外からの労働輸入、さもなくば嘗ての日本のように工場の海外移転である。
中国経済の転機は、この労働市場でも顕著となった。習発言はそのこと先取りしてのことだろう。
杜父魚文庫
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