毎日新聞が北京とワシントンから北朝鮮の核問題:ウラン濃縮停止合意について分析記事を送ってきている。その要点は
①北朝鮮側はあくまでも「一時停止」との位置づけで、ウラン濃縮施設の完全な稼働停止には応じていない。
②米朝協議の中でも北朝鮮側は最後まで、運転停止には難色を示していたとみられる。
③6カ国協議が再開された場合には、北朝鮮への制裁解除と軽水炉提供に関する問題を優先的に議論することになったという。
④オバマ政権は一定の対話によって北朝鮮の挑発行為の抑止を目指す「管理戦略」に転換している。
⑤11月の米大統領選を乗り切るまでは、朝鮮半島情勢の沈静化を図りたいという現実的な判断があるとみられる。
⑥北朝鮮の核廃棄を盛り込んだ05年9月の6カ国協議の共同声明履行への道筋が今回の合意でついたとは言い難い。
⑦今回の合意には、金正恩体制がスタートしたばかりの北朝鮮が強硬姿勢に出ないよう、(米国が)「対話モード」を強調しようとの意図がみえる・・・としている。
【北京・米村耕一】北朝鮮の核問題を巡り、米朝は昨年7月から約7カ月間の協議を経て、北朝鮮のウラン濃縮活動の中断について合意にたどり着いた。ただ、北朝鮮側はあくまでも「一時停止」との位置づけで、ウラン濃縮施設の完全な稼働停止には応じていない。米国側も北朝鮮が要求する食糧支援について「追加支援の可能性」との表現にとどめており、今後、米朝両国は今回の合意の履行を進めつつ、細部についての協議を進める見通しだ。
北朝鮮が強調する「一時停止」とは、ウラン濃縮施設の完全な稼働停止ではなく、ウラン注入をせずに遠心分離機の「空運転」を続ける形だとみられる。北京の外交関係者らによると、ウランを濃縮する遠心分離機は「いったん停止すると破損などで再稼働が極めて困難になる」。そのため、米朝協議の中でも北朝鮮側は最後まで、運転停止には難色を示していたとみられる。
一方、食糧支援についてはコメやトウモロコシなどの穀物の支援を要求する北朝鮮に対して、軍への転用を警戒する米国側は横流しなどの監視がしやすいビスケットなどの栄養補助食品に限定する立場を崩さなかった。ただし、今後は米朝間で合意した24万トンの栄養補助食品支援の詳細について協議し、北朝鮮国内で食糧不足が続くかどうかに応じて追加食糧支援の可能性も検討することになった。
また、米国は経済制裁が北朝鮮住民の民生分野を狙いうちしないことを確認し、6カ国協議が再開された場合には、北朝鮮への制裁解除と軽水炉提供に関する問題を優先的に議論することになったという。
核実験やミサイル発射の一時停止を盛り込んだ今回の合意は、10年11月の北朝鮮による韓国・延坪島(ヨンピョンド)砲撃などの挑発行為の抑止を望む米国側と、新指導者である金正恩(キムジョンウン)氏による体制を安定させ、米朝関係を先行させることで韓国を揺さぶりたい北朝鮮の思惑が一致した結果だと言える。
◇米、現実的な選択へ 11月の大統領選にらみ
【ワシントン白戸圭一】オバマ政権は09年1月の発足後、北朝鮮が非核化へ向けた具体的措置を講じなければ対話しない「戦略的忍耐」を基本方針に据えてきた。だが、昨年7月に1年7カ月ぶりに米朝協議を再開して以降、一定の対話によって北朝鮮の挑発行為の抑止を目指す「管理戦略」に転換している。
北朝鮮のウラン濃縮活動などの一時停止との引き換えに栄養補助食品の提供に合意した背景には、イランの核開発問題を巡る情勢が緊迫する中、少なくとも11月の米大統領選を乗り切るまでは、朝鮮半島情勢の沈静化を図りたいという現実的な判断があるとみられる。
オバマ政権が「管理戦略」に転換したのは、「北朝鮮の核兵器の放棄は見込めない」(バージェス米国防情報局長)との分析がある。英国のヒューズ前駐北朝鮮大使が昨年9月の離任会見で、北朝鮮高官が「リビアのカダフィ政権が空爆されたのは、リビアが核を放棄したからだ」と語ったことを明らかにしたように、オバマ政権も北朝鮮が「生き残り戦略」として、核兵器に固執することは分かっている。「管理戦略」は、北朝鮮に対しては対話を織り込んで挑発の抑止を目指すしかない、という現状を反映したものだ。
だが北朝鮮は10年3月、核問題の協議再開のためにオバマ政権と水面下で接触している最中に、韓国海軍哨戒艦を撃沈した。ブッシュ前政権は、北朝鮮にテロ支援国家指定解除など多くの「見返り」を与えたが、北朝鮮は結局、逆に核開発を加速させた。米国内には「北朝鮮との対話には、挑発行為を防ぐ効果はない」との見方も強く、ブッシュ前政権の国家安全保障会議アジア上級部長だった米シンクタンク「戦略国際問題研究所」のマイケル・グリーン上級研究員は、北朝鮮が核兵器を運搬する弾道ミサイルの開発を進めていることなどを根拠に「今年中に3回目の核実験に踏み切る可能性が高い」と指摘する。
オバマ政権は今回の協議結果を受け、日本、韓国、中国などと6カ国協議再開へ向けた環境整備を進めるとみられる。だが、北朝鮮の核廃棄を盛り込んだ05年9月の6カ国協議の共同声明履行への道筋が今回の合意でついたとは言い難い。今回の合意には、金正恩(キムジョンウン)体制がスタートしたばかりの北朝鮮が強硬姿勢に出ないよう、「対話モード」を強調しようとの意図がみえる。(毎日)>
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