北朝鮮が核開発停止で合意した影響は韓国の政界にも波紋をよんでいると、ソウルからロイターが報じている。注目すべき政治的リスクとして、ことしの大統領選挙で故盧武鉉前大統領の側近で、民主統合党常任顧問の文在寅氏が出馬する可能性を指摘した。
韓国与党の「セヌリ」は政治活動に活性化の動きはみられない現状で、4月の総選挙で大敗を避けられるかは明らかでない。むしろ野党の「民主統合党」が総選挙では勝利するとみられている。大統領選でも野党が勝利すれば、(韓国が)北朝鮮とより緊密に接する可能性があるので、米国との外交関係に影響を及ぼすこともあり得るとした。
<[ソウル 1日 ロイター]金正日総書記が死去し、新後継者に三男の正恩氏が指名された北朝鮮の情勢を国際社会が見守る中、同国は2月29日、核実験やウラン濃縮、長距離ミサイル発射の停止と、モラトリアム(一時停止)履行確認を目的とした寧辺の核施設への国際原子力機関(IAEA)査察団受け入れで合意した。
今回の合意によって、こう着していた北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議再開への道が開かれたほか、昨年12月の金正日総書記の死去後、同国の政策が大きく転換していることが示唆された。
17年間にわたり政権を支配した金正日総書記は、北朝鮮の核兵器やミサイルの開発計画における立役者だった。数百万人が飢餓に苦しむ中、国家財政の多くは軍に投じられた。
金正日総書記死去後の北朝鮮では、正恩氏が新たな指導者となり、正日氏の義弟である張成沢氏や軍幹部らを含んだ集団指導体制が敷かれている。正恩氏は朝鮮人民軍最高司令官に就任した後に軍事施設を視察したほか、韓国政府との協議を拒否するなど、強硬派イメージの確立を目指している。
北朝鮮の同盟国である中国は、新たな指導体制への支持を表明。韓国と米国は安定した権力移行が行われることを望むとしている。
韓国では今年、総選挙が4月に、大統領選挙が12月にそれぞれ実施される予定。両選挙が同じ年に行われるのは20年ぶりとなる。経済政策、雇用問題、格差拡大などが主要な論点となる見通し。
<北朝鮮の次なる課題>
北朝鮮は金正日総書記の死去後、正恩氏への個人崇拝を高めるため、同氏に「偉大なる後継者」や「最高司令官」など数多くの称号を与えている。正日氏が父親の金日成主席の死去後、100日間喪に服したのとは対照的に、正恩氏は過去6週間に15カ所以上で視察を行うなど、公の場に相次いで姿を見せている。
アナリストらは、正恩氏が視察を行うことで、軍隊での支持基盤を強化し「準備の整った指導者」との資質を証明する目的があるとみている。
29日の北朝鮮による発表を受け、米国は栄養不良問題に対処することを目的に24万トンの食糧支援を行う計画を明らかにした。一方で韓国は、6カ国協議の再開には北朝鮮がすべての核活動を停止することが前提だとの姿勢を維持している。
同協議再開について米国は前向きな姿勢を示しているが、北朝鮮と韓国の関係改善が先に行われるべきだとしている。
注目すべきポイントは以下の通り。
◎北朝鮮による核活動に関するモラトリアムの履行、またそれに対する国際社会の反応
◎権力移行に問題が生じ、クーデターが計画されたことを示すような兆候。このような兆候は、正恩氏の権威に対する公然な批判、軍内部での衝突、国内または中国国境付近における異例な軍事活動などによって確認できる。
◎南北朝鮮、米国、中国の間で行われる会合
◎北朝鮮によるIAEA視察団の再入国許可。これは北朝鮮が6カ国協議再開に真剣であることを示唆している。
◎北朝鮮または韓国が、北朝鮮の景勝地、金剛山(クムガンサン)での観光開発で譲歩すること。金剛山は2008年、韓国人観光客が射殺されたことを受けて韓国側が同地区へのツアーを中止して以来、閉鎖されている。
<韓国与党が直面する問題>
韓国与党はイメージ刷新のため、党名を「ハンナラ」から、「新たな世界」を意味する「セヌリ」に変更。同党では、朴槿恵氏が非常対策委員長に就任したことで実質的な党代表となったが、同党の政治活動に活性化の動きはみられないほか、4月の総選挙で大敗を避けられるかは明らかでない。同党では汚職事件も相次いで発覚している。
一方野党の民主統合党は昨年12月に合併を行い、新たな党代表も選出。総選挙では勝利するとみられている。大統領選でも野党が勝利すれば、北朝鮮とより緊密に接する可能性があり、米国との外交関係に影響を及ぼすこともあり得る。
注目すべきポイントは以下の通り。
◎朴氏は総選挙に出馬する候補者を確認することになるが、候補者に選ばれなかった議員が不満を示し、党内の不和が悪化する可能性もある。
◎高い人気を誇るベンチャー起業家出身の安哲秀ソウル大教授は政界進出の計画について言及を避けているが、安氏が政界入りした場合、大統領選などをめぐる状況は一変する。
◎故盧武鉉前大統領の側近で、民主統合党常任顧問の文在寅氏がより重要なポジションを務め、大統領選への出馬を表明することもあり得る。(ロイター)>
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