9208 政界が「言うだけ番長」だ 岩見隆夫

先週、親戚の法事で水戸市の禅寺に行く。寺側が参会者に1枚のペーパーを配った。刷られていたのは、大乗仏教の経典、摩訶般若波羅密多心経(まかはんにゃはらみったしんぎょう)、通称般若心経だった。読経が始まる。ペーパーを目でたどる。あの有名な色即是空・空即是色のあとに、
<不生不滅・不垢不浄・不増不減……>と続く。不増不減、増さず減らず、無常世界を否定したものらしいが、この時期、この文句は耳に痛い。
法事の数日前の2月22日、最高裁が違憲状態と指摘した<1票の格差>を是正するための衆院選挙制度改革について、与野党幹事長・書記局長会談が不調に終わったばかりだからだ。
小選挙区定数の格差是正案、<0増5減>は民主、自民両党が一致しているのに、実現しない。政界はどうかしている。不増不減と聞いて、お経が政治のふがいなさをあざ笑っているように思えたのだ。
29日の党首討論では、自民党の谷垣禎一総裁が、この問題を真っ先に取り上げ、「最高裁の判決に沿わなければならない。全部からめると進まないから、優先順位をつけて」
と言えば、野田佳彦首相(民主党代表)が、「そのとおり、違憲状態の解消を最優先にという認識はいっしょだ。いっしょに汗をかこう」
と応じ、息はぴったりだ。汗をかくほどのことではない。やろうと思えばすぐにできることではないか。
全部からめる、というのは、<1票の格差>是正と定数削減、選挙制度抜本改革の三つを同時決着しようとしたことを指すが、それが無理なら、<1票の格差>だけ切り離して先に処理すればすむことだ。
野田首相は1月の施政方針演説の冒頭で、「<日本再生元年>となるべき本年、私は何よりも国政の重要課題を先送りしてきた<決められない政治>から脱却する」
と約束したはずだった。ところが、<1票の格差>問題のモタモタ、決められない政治の典型である。これでは、首相はじめ政界全体が<言うだけ番長>同然と言うほかない。
すでに区割り改正案の首相への勧告期限(前の国勢調査から1年)が切れ、2月25日から立法府は違憲・違法状態に陥っている。異常事態はきょうで8日間続いているが、政界に切迫感はない。横路孝弘衆院議長は、
「極めて残念」と談話を発表しただけだ。恐るべき弛緩(しかん)である。
何人かの議員に問うてみた。このまま放っておくのか。みんな口をそろえて、「<1票の格差>だけ切り離してやればいいのに、おかしい。情けない」
と言うが、どこか人ごとだ。違憲・違法状態に入った翌日の26日、自民党の石原伸晃幹事長は、「民主党が解決策を示さないのは、衆院を解散したくないからだ。<1票の格差>を違憲状態にしておけば、衆院選ができない理由になる。手のこんだアリバイ工作に使われた」(岩手県宮古市での講演)
と述べたという。そんなこととは思いたくないが、もしそういう意図が少しでも働いているとすれば、あきれはてた自殺行為である。
先日来、言葉ばかり先行して結果が伴わない人として民主党の前原誠司政調会長が<言うだけ番長>呼ばわりされ、ひと騒動起きた。だが、<言うだけ>は政界全体に広がっている。民主党のマニフェスト(政権公約)が代表例だ。言葉不信である。(敬称略)
杜父魚文庫

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