<<日本の戦後防衛政策について「漸進主義」とはよく言ったものです。多くの研究書では、憲法と日米安保との緊張関係、そして国会での自社対立の構図を考慮すれば、一見俊足のウサギより「気がついたら進んでいる」カメの方が賢明かつ日本の政治体質に適合しているという評価になっています。
しかし、最初は全部禁止をしておいた後で出来るところだけを例外扱いにして進むこのやり方こそが何も決断しないことの言い訳なのではないかと思うようになりました。
むしろ、いまや本当にしたいことなどないのかもしれません。状況に押されるようにして、そろりそろりと進む手法はTPPなどでも同じで、アジアは日本がどこに進んでいくのかを注視しています。
米国の国力の衰退が自他ともに認めざるをえない段階に到達したいまは、米国の意志のみを針路を決める指標にはできないからです。>>・・・「”共犯”の同盟史」(岩波書店)の著者・豊田祐基子さんが、シンガポールから送ってき年賀状の一節である。
三月になって、これを持ち出すのは「状況に押されるようにして、そろりそろりと進む手法」が、いまの野田首相の手法そのものだからだ。”ソロリソロリ”の政治手法は、”ドタバタ”の拙速よりも手堅いから決して悪くはない。
だが岸内閣以来、多くの内閣の興亡を比較的近くで見てきたから、”ソロリソロリ”は選挙向きではないと思っている。選挙民の方は小泉型の劇場型政治にどうしても心を奪われる。
昨年の二月のことになるが、ホテル・オークラで92歳になった辻トシ子さんのパーテイがあった。戦後保守政治を、それこそ裏舞台で身近で見てきた辻トシ子さんだったから、会場は政財官界の重鎮で埋め尽くされていた。マスコミ界から顔をみせたのは、岩見隆夫さんと私ぐらいだったろう。
その席上で当時の野田財務相が挨拶に立った。私は「オヤオヤ?何でノダなのだ」と思ったものである。骨髄腫に罹っている私は次女に介添えをして貰ってパーテイの末席に座ったのだが、いまになって次女は「辻さんのパーテイで初めて野田財務相があいさつをしていたが、あの頃からポスト菅は野田だと辻さんがみていたのかしら・・・」という。
パーテイの後に辻さんから電話があって「野田はどう?」と聞いてきた。その時になって自民党の宏池会(旧池田派)の中に野田後継の可能性を予測する空気があることを知った。世間では菅内閣が倒れれば、前原後継を予測する方が多かったのだが・・・。
面白いのは辻トシ子さんのパーテイには自民党の清和会(旧福田派)は呼ばれていない。私の記憶でも塩川正十郎氏が一回出ただけである。言うなら宏池会を中心とした集まりなのだが、旧佐藤派も顔を出している。小沢一郎氏も挨拶に立ったことがある。
辻さんのパーテイには出てこないが、福田康夫元首相とは別ルートで辻さんはパイプを持っている。また辻さんは読売巨人軍の後援会・無名会のメンバーで王ちゃんとも親しい。民主・自民大連立の裏方が、このパーテイに揃って顔見せをしているのも面白い。
そんなことを思っていたら、今朝、久しぶりに森元首相から電話があった。この人も民主・自民大連立で動いている。”ソロリソロリ”の野田首相だが、ある日、脱兎のごとく駆け出すのかもしれない。私はキイ・マンは、森さんではないか、と思っているのだが・・・。
杜父魚文庫
9225 ”ソロリソロリ”の野田首相 古沢襄

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