三月八日の衆院予算委員会で野田首相が、「引き分け」という表現でロシアのプーチン首相が北方領土問題解決に意欲を示したことについて、「引き分けの意味は双方納得できる結果という意味だと思う。(4島のうちの)色丹島、歯舞群島の2島返還だからいいという話ならば引き分けにならない」と述べた。
国内的にみれば優等生の答弁だが、対外的にみればプーチンの投げた球を打ち返す好球必打の答弁にはなっていない。首相はさらに「4島のうちの2島の面積は7%だ。残り93%が来ないということでは引き分けにならない」と外務省の役人のような消極的な発言に終始した。
北方領土の問題に下手に手を出すと火傷をする、だから四島一括返還をオオムのように叫び続けるのが安全運転だというのが外務省の一貫した姿勢である。
その安全運転からはみ出した首相が三人いた。鳩山一郎首相であり、橋本龍太郎首相、近いところでは森喜朗首相がソ連・ロシアとトップ交渉で打開策を模索している。もう一人付け加えるなら、首相にはならなかったが、河野一郎氏であろう。
北方領土交渉でもっとも大きな壁となっていたのは米国の反対だというのは、外務省の役人なら誰でも知っている。米ソ冷戦の時代に北方領土交渉に手を染めた鳩山・河野は、あえてその壁に挑戦した。アメリカン・スクールが強い外務省の反対だけでない。吉田自由党系の自民党がこぞって鳩山・河野のソ連外交に反対し、ゆさぶりをかけている。
日ソ関係が好転すれば、米国にとって不利益になる・・・この構図は冷戦が消えた後にも少なからず残っている。
朝日新聞主筆の若宮啓文氏がモスクワでプーチン首相と会見して「北方領土問題は最終的に解決したいと強く願っている。双方が受け入れ可能な形で行いたい」(三月二日・モスクワ)との発言を引き出している。
その若宮氏の父・若宮小太郎氏は朝日政治部記者から鳩山首相の秘書官に転じて鳩山訪ソに同行した。鳩山首相には河野農相が同行し、日ソ漁業交渉、日ソ平和条約交渉でフルシチョフ共産党第1書記を向うに渡り合ったが、河野氏も朝日政治部の出身である。
歴史が綾なす因縁を思わずにはいれない。しかし月日は流れ、米国の日ロ関係が好転する警戒感が少しずつ変化の兆しがみえる。米国にとって日ロの関係改善の危惧よりも、中ロが一枚岩になる方の警戒感が方が強くなっている。ロシアもアジアの大国である日本を意識せざるを得ない。
森氏は帰国した若宮氏に早速、会っている。野田首相はまだ若宮氏と会っていない。鳩山由紀夫氏は若宮氏と会っただろうか。そこに民主党政権の対ロ外交の本気度が出ているように思えてならない。
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9280 野田首相の「2島返還では引き分けにならない」 古沢襄

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