9333 習近平の中国は対日強硬路線へ 宮崎正弘

次の中国の最高指導者の椅子をほぼ手中にした習近平が日本に対して強硬路線に舵取りを変える懼れが高まった。
なぜなら習近平はカリスマ性がなく、強い指導力も伴わないため集団指導体制の下で、権力基盤を固めざるを得ず、そのためには党の大勢に順応し、軍の突出を黙認せざるを得ず独自の戦略行使は望み薄だからだ。
むろん政治は一寸先が闇であり、正確な近未来を誰も予測することはできないが、現在までに出てきた人事情報やデータから判断すると習近平時代の中国はおよそ次のようになるだろう。
第一に現在の胡錦涛ー温家宝体制が世界的視野をもって米国との諍いを表面化せず、しかも一方で民主化への努力を印象づける「改革」志向だが、その代表格である温家宝などの前向きな能吏が次期政権には不在となりそうである。王岐山、李克強、李源潮、王洋ら執行部入りが予測される指導者らにも「民主化」のカリスマ性が乏しい。
第二に胡錦涛率いる共青団人脈の勢力拡大は一段落し、「第六世代」の指導者として残るのは周強(湖南省書記)、胡春華(内蒙古書記)あたり。習政権では共青団出身者は大きく排除され、太子党、上海派からの抜擢が急増しよう。改革はつねに唱われるが実行されず特権階級の維持が政治目標のトップに置かれるだろう。腐敗は止まず、暴動は広がり、結局のところ中国は事態の悪化を「反日」ですり替えることになる。
第三に次期皇帝の周りを囲むのは中国的特徴から言えば家族、一族郎党、親戚ならびに郷土人脈となり、つぎに学校同窓会が主役となる。習の母親=斉心が最大ブレーンと言われるが、大学同級生の何立峰(天津副市長)が参謀役、陳希(精華大学同級で遼寧省副省長)ら幼なじみの発言力が増すだろう。トウ小平、江沢民、胡錦涛の家族らがビジネスを拡大して富豪集団を形成したように習近平の姉弟らは不動産開発で富豪になっている。これから利権がらみのビジネスの寡占も始まる。
第四は軍において習近平の人気は高く、かつ夫人の澎麗媛は少将にして軍所属歌手、軍内に台頭した劉源は劉少奇の息子だが習の幼なじみ。また総後勤部副主任の劉衛平は中学の同級で遊び仲間だった。やがて軍の高官は習に忠誠を誓う人脈で満たされるだろう。
つまり軍の国軍化を説いた章泌生(副参謀長)ら改革派の軍人が失脚したように、習に諂う軍人が増え、同時に習は軍権を掌握するためにも国防費の二桁増路線を維持する。軍は共産党に従属するのであり、国軍ではないから軍の暴走はときとして尖閣諸島沖の衝突事件のように強硬姿勢に傾斜せざるを得ない。
第五に習近平は八方美人型で決断が鈍いと言われるが、彼を引き立ててくれた曽慶紅(元国家副主席で江沢民の右腕)らの長老を大事にする。北戴河会議は長老のあつまり、要の議題はここで決まる。
現在の中国の政権は共青団+上海派の連立政権で多数派工作のため太子党の取り合いだが、次の習政権は太子党+上海派の連立が主導し、共青団など改革志向の勢力を凌駕する可能性が高いのである。(この文章は『北国新聞』コラム「北風抄」3月19日掲載の再録です)
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