9356 消費増税法案は大綱から大幅後退、政治の意志問われる結果に 古沢襄

海外メデイアの論評の特徴は、日本的な思惑や感性を斬り捨てて、ズバリ批評してくる点にある。和を尊ぶ日本的な風土からすると、時には違和感すら覚える。
英ロイターは、消費増税法案をめぐる民主党の事前審査は、意見集約を優先して決着したと前置きして、「財政健全化のコミットメントとしてはあいまいさが残り、将来世代へのつけ回しを是正するための政治の意志を明確に示すことに失敗した」と断じた。野田首相ら民主党にとっては、心外な論評であろう。
これは消費増税法案をめぐる動きが、政策的な論争ではなくなって、もっぱら政争レベルの駆け引きに堕した当然の帰結といえる。その意味で、ロイターの論評には違和感を覚えない。
その根底には和を尊ぶ日本的な美徳とは無縁な権力にしがみつく政党人の露骨な醜さが垣間見える。もっと言うなら”バラ撒き政治”に堕した民主党が枯渇した財源を消費増税に求めたと言っていい。経済に強いロイターが早速、「将来世代へのつけ回しを是正するための政治の意志を明確に示すことに失敗した」と不合格の論評を掲げたのは当然といえる。。
<[東京 28日 ロイター]消費増税法案をめぐる民主党の事前審査は、意見集約を優先して決着、経済状況次第で増税を停止する「弾力条項」には「名目3%成長・実質2%成長」を努力目標として盛り込んだ。
政策の実現を成長率の達成で自動的に縛る内容ではないが、ハードルが高くなったのも事実。再増税項目にいたっては全面的に削除し、2020年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス)黒字化を視野にさらなる税制抜本改革の方向性を示した「大綱」からは大幅に後退した。
財政健全化のコミットメントとしてはあいまいさが残り、将来世代へのつけ回しを是正するための政治の意志を明確に示すことに失敗した。
<政府原案から譲歩の連続、弾力条項で成長率達成の条件化は回避>
党内手続きは増税反対派の抵抗で難航を極め、最終決着は執行部が当初目指した16日から月内最終週に大幅にずれ込んだ。30日の閣議決定を視野に逆算する綱渡り状態。かろうじて野田佳彦首相が約束する年度内の法案提出にたどりついた。だが、法案内容は、政府原案から再三の譲歩を迫られ、実現性の後退は否めない。
とりわけ、「弾力条項」への成長率明記を回避することは執行部にとって譲れない一線だった。「名目成長率3%、実質成長率2%の達成を条件として明記すべき」との増税反対派の主張に対して、執行部は「数値(目標設定)は(増税を)やらないということと同じだ」(藤井裕久税調会長)として反対を貫いてきた。
「名目3%、実質2%」成長は新成長戦略で閣議決定されているが、ここ20年間の実績をみても、名目成長率が3%を超えたのはバブル経済末期の1991年度の4.9%が最後で、リーマンショック前の2000年度─2007年度では平均0.16%にとどまる。このため、成長率の達成を条件とすれば、増税の実現が遠のきかねないからだ。
しかし、最終局面で、法案の意見集約のために、野田佳彦首相と前原誠司政調会長、輿石東幹事長が英断。弾力条項では新たに「名目経済成長率3%程度、実質経済成長率2%程度を目指した望ましい経済成長に早期に近づけるための総合的な施策の実施・その他の必要な措置を講じる」との文言を加え、新成長戦略で掲げた成長率の実現を担保することで増税反対派・慎重派に歩みよる修正を行った。同時に、施行前に「経済状況などを総合的に勘案したうえで」判断することも明記。この2項目を合わせ読むことで、執行部が警戒した「増税先送り」にはつながらないと判断した。
終了後会見した古本伸一郎税調事務局長は増税先送りとの見方を全否定し、経済成長率の達成が「停止条件でないことを確認した」とも説明。消費増税の実施が自動的に成長率で縛られるものではないとしたが、実現に向けたハードルは確実に上がった。
<20年度の財政健全化目標達成めどたたず、「決められない政治」の象徴>
大幅に後退したのが、消費税率10%超への引き上げを視野に入れた「再増税条項」。政府・民主党執行部は今回の消費税引き上げは抜本税制改革の「一里塚」で、社会保障の安定と充実のためにはさらなる増税は不可避との認識を示してきた。政府原案では「さらなる税制改革について、16年度をめどに法制上の措置を講じる」とし、16年度までに追加増税の法案を決定する姿勢を明示していた。
しかし、事前審査で、政府案から「16年度」の時限と「法制上」の文言が削除され、「法律の公布後5年をめどに措置を講じる」と次第に追加増税の方向性をトーンダウンさせていった。「旗はボロボロだかポールは立っている」──。古本氏は、条文に込めた政府・民主党執行部のこだわりをこう述べていたが、最後は、項目全体がすっぽり削除された。
「税制改革」の言葉尻を取り繕う結果、格付け会社が注目する「財政健全化目標の達成に向けた政治の意志」を伝えることに失敗したつけは大きそうだ。
政府は「2015年度の基礎的財政赤字対GDP比半減、2020年度の黒字化」を財政健全化目標に掲げ、G20サミットなどの国際会議で明言してきた。しかし、消費税引き上げ時期をめぐる昨年末の素案決段階で、民主党は2009年マニフェスト(政権公約)との整合性を優先させ消費税引き上げ時期を半年ずらした結果、2015年度の基礎的財政赤字の半減目標は1年後ずれする結果となった。
内閣府の中長期試算では、名目成長率1%台半ばの慎重シナリオでは、20年度のプライマリーバランスは黒字化どころか(GDP比)3%の赤字のまま。額にすると16.6兆円の赤字で、仮にこの不足分をすべて消費税で穴埋めするとすれば、さらに6─7%分の税率引き上げが必要な計算だ。しかも、これには民主党が公約する「最低保障年金」導入による社会保障費増額分は反映されていない。次の改革の必要性にふたをし、またも「決められない政治」を露呈させてしまった。
<30日閣議決定に向け、国民新との調整へ>
党内の法案審査手続きは終えたが、30日の閣議決定までにはなお難関が控えている。国民新党の亀井静香代表は増税法案への反対を鮮明にしている。国民新党内も一枚岩ではないが、亀井亜紀子政調会長は25日のNHK番組で、消費増税法案が閣議決定された場合の連立離脱の可能性について「決定権は亀井静香代表にある」と述べており、予断を許さない。(ロイター)>
<消費増税関連法案をめぐる民主党の事前審査は28日午前2時すぎ、前原誠司政調会長が拍手と怒号が交錯する中で一任取り付けを宣言、幕切れとなった。会場となった衆院議員会館の会議室は大混乱。出席者がもみ合う中、前原氏は会場を抜け出した。増税に反対する小沢一郎元代表に近い中堅・若手議員らは収まらず、「こんなめちゃくちゃな話があるか」などと怒りをぶちまけた。
出席者によると、延べ8日間、40時間余りにわたった議論を終結させるきっかけをつくったのは、ベテランの石井一参院予算委員長。反対派に向かい、「文句があるやつは9月の代表選で戦えばいい」と言い放って法案の閣議決定を認めるよう求め、執行部に審査打ち切りを促した。
これに対し、反対派の川内博史衆院議員は、なおも議論を続けるよう求めたが、前原氏は「皆さんの思いは十分に承った。私に一任いただきたい」と発言。場内は賛成派の拍手と反対派の怒声で騒然となったという。
小沢グループは、法案審査を仕切る前原氏が「一任を得た」と一方的に宣言して姿をくらますのを阻止しようと、出入り口付近に極真空手経験者ら「武闘派」を配置。前原氏は野田佳彦首相に近い議員らに守られながら脱出を試みたが、反対派がつかみかかって、前原氏を囲んだ議員ともみ合いとなったため、反対側にある別の出入り口から会場を逃れた。(時事)>
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