「日本の衰退を裏書き」とウォールストリートジャーナルが比喩した。台湾「鴻海」がシャープの筆頭株主へ躍進、国際分業時代? 自前主義の限界?
さきのアルピータの経営行き詰まりは、日本のテクノロジーの未来を象徴したが、電子産業の衰退を裏書きしてみせたのは、シャープの筆頭株主に台湾の巨大IT企業「鴻海」が飛び出したことだ。
日本経済新聞の見出しは「シャープ、台湾・鴻海が出資―――1割、筆頭株主に。液晶パネル合弁」とあって、なんだか主役はあくまでもシャープのような印象がある。
分かりやすいのは米国ウォールストリートジャーナルだった。「鴻海・シャープーー日本の衰退を裏書き(underscore)」という見出しだったから。
同紙日本語版はかく言う。「台湾の電子機器受託製造最大手、鴻海グループに自社株10%近くを譲渡し、筆頭株主に迎えるとのシャープの決定は、かつて業界を支配していた日本の電子産業がいかに凋落したかを浮き彫りにする」と。
英誌フィナンシャルタイムズも「鴻海、シャープの株式一割を取得」と事実を大きく報じた。つまり、これは「世界的な」事件なのである。
日本のお家芸、ものづくりの代表選手としての電子産業がかくも一途な衰退を見せた背景には韓国、台湾、中国の躍進がある。
しかし根源にさかのぼれば「ヤングレポート」以来の米国の戦略である。当時、米国は半導体、集積回路で日本から首位をうばえ、そのために韓国に梃子入れせよ、と提唱し、米国は官民挙げて韓国の産業を育成してきた。
台湾の鴻海精密工業が瞬く間に、この世界でのし上がってきた背景にはアジアにおける電子産業の勃興と、受託生産(EMS)である。しかも鴻海の企業目標は「サムソン打倒」と勇ましい。
▼鴻海精密工業の目標は「サムソンをやっつけろ」
電子部品から液晶パネルまで、なにからなにまでを大手メーカーの製品を受託した。アップルの「i pad」もアイフォーンも鴻海が生産している上、中国の子会社「冨士康科学技術集団」(Foxconn)は、じつに百万人の従業員を要する大企業に成長して、鴻海グループ総帥の郭台銘は、いまや台湾財界の顔というより世界ビジネス界の顔である。
郭台銘はもともと中国山西省がルーツの外省人。だからやることは荒っぽい。台湾企業という印象で、この企業集団を解釈すると間違える。
げんに2010年に富士康の深セン工場では連続12件もの従業員飛び降り自殺が発生し、世界のジャーナリズムが注目した。過酷な就労条件、劣悪な福祉環境などと批判された。10名が死亡し、二名が重傷を負い、管理の杜撰さが問われた。
しかし富士康はくじけず、その後も中国国内で工場を増設し、増産に次ぐ増産。大陸内だけで54万人ともいわれる従業員をかかえ、或るエコノミストは「毎年二万人が辞め、二万人以上を雇い、殆ど毎日、同社人事部はハローワークのごとき人混み」と言う。
この鴻海のいきなりの大躍進は北京の奇美実業いじめという政治に直結する。親日家、台湾独立運動のつよきスポンサーで李登輝の支援者でもあった許文龍が率いた奇美グループが、数年前に液晶パネルの生産に進出して中国に工場を開いた。
はじめはにたにたと揉み手をして下手で接近してきた中国は、奇美中国工場での生産が軌道に乗るや、イチャモンをつけて工場長を逮捕し、許文龍に「台湾独立運動は誤りだった」と新聞に広告をせよ」と命令を出した。
北京はまた台湾独立運動を封じ込めるために2005年3月に「反国家分裂法」なる法律をいきなり制定し、大陸へ進出した台湾企業6万社、駐在台湾人100万人を管轄下においた。
▼奇美の撤退も鴻海にとっては僥倖となった
許文龍は社員が中国で人質となり、恐喝同様なかたちで意見広告を台湾の主要新聞に、それも反国家分裂法に反対し台湾独立を叫ぶ120万人の「人間の鎖」デモ当日の3月26日に打たされる羽目におちいった。
李登輝は「台湾人なら誰でも許文龍さんの気持ちは分かる」と発言し、来日していた映画俳優のリチャード・ギアは「反国家分裂法に反対する」と突如、記者会見で叫んだ。爾来、許文龍の政治発言はやんだ。沈黙を強いられたのだ。
嫌気がさした許文龍は液晶パネルのビジネスを鴻海に株式譲渡したといわれる。それがバネとなって鴻海は中国に本格的に進出し、中国の子会社foxconn(冨士康科学技術集団)の大々的躍進へと繋がる。
シャープもまた、アジア勢と組まざるを得ない状況に追い込まれ、ソニー、パナソニックに次ぐ大赤字を記録していた。だから増資分を鴻海に購入して貰うほか、堺工場はCEOの郭台銘個人が46%の株式を取得することになる。技術開発の自前主義は限界にきたということだろう。
杜父魚文庫
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