英ロイターは昨年12月に野田政権が発表した「日本再生の基本戦略」を詳しく報道している。努力目標とはいえ「2011年度から2020年度までの平均で名目成長率3%程度、実質成長率2%程度を政策努力の目標」として掲げた成長戦略を高く評価していた。
しかし現実には日銀の中期経済見通し「展望リポート」は13年度の実質成長率を1.5%(中央値)とみており、実質2%の達成は難しいというのが、大方の見方である。下手をすると野心的な「日本再生の基本戦略」が羊頭狗肉になりかねない。
だからこそ、名目成長率3%、実質成長率2%を消費税増税関連法案の前提条件には出来ないと野田首相はこだわりをみせた。不可能な努力目標を増税の前提にしてしまえば、増税が出来なくなるからである。だとするとロイターが評価した野心的な「日本再生の基本戦略」は官僚が造った作文に過ぎないのか?
これについて藤村修官房長官は28日午前の記者会見で、消費税増税関連法案の景気弾力条項に、増税にあたり「名目経済成長率3%、実質2%程度を目指す」との努力目標が明記されることについて「数字が前提条件とは理解できない」と述べ、成長率の明記が増税の妨げにはならないとの認識をわざわざ示して予防線を張った。
藤村氏は、昨年末に閣議決定した「日本再生の基本戦略」に、すでに「名目3%、実質2%」が盛り込まれていると強調し、「(弾力条項は)この望ましい経済成長に早期に近づけるため施策を講じ、その上で経済状況について総合的に勘案するということだ」と述べた。(産経)
この点については、国会論戦で争点となり、野党から追及されるのは必至であろう。
さらには、消費税を10%まで引き上げても、政府の財政健全化目標の達成には、なお16.6兆円足りない。党内の反対勢力に押されて「追加増税条項」を削除せざるを得なかったから、野党からは財政健全化の後退と批判を浴びるだろう。
この法案で自民党の協力を求めても、法案成立のハードルは高いといわざるを得ない。
[東京 22日 ロイター] 政府は22日、国家戦略会議(議長:野田佳彦首相)を開き、中長期的な政策指針となる「日本再生の基本戦略──危機の克服とフロンティアへの挑戦」をまとめた。
円高・デフレを当面の重要課題と認識し、「日本銀行と一体となって速やかに安定的な物価上昇を実現することを目指す」ほか、深刻化する欧州債務危機を踏まえ、国際金融市場の不安定化や国内経済への影響について「警戒感を日銀と共有し、緊密に連携する」。成長力強化や円高・デフレ脱却を中心に据えてきたマクロ経済運営方針に、新たに「国際金融市場変動への備え」を盛り込み、「国際金融市場の安定確保に資する施策を幅広く検討し施策の推進に努める」決意も示した。
「日本再生の基本戦略」では、日本が構造転換の遅れによる「失われた20年」に加えて、東日本大震災や原発事故、円高、世界的金融市場の動揺など重大な困難に直面しているとの認識の下、危機を克服し、新たな可能性を開拓するための基本戦略として、1)東日本大震災からの復興、2)エネルギー・環境政策の再設計、3)経済成長と財政健全化の両立、4)新成長戦略の実行加速と強化、5)新たなフロンティアへの挑戦──の5つの柱についての戦略を策定した。
特にマクロ経済運営では「円高・デフレを当面の重要課題として対応している」とし、「今後2年間は復興需要が見込まれる中、政府は円高の影響も注視しつつ、日本銀行と一体となって速やかに安定的な物価上昇を実現することを目指して取り組み、復興需要に依存しない民需主導の経済成長への円滑な移行を図る」とした。
中長期的には「2011年度から2020年度までの平均で名目成長率3%程度、実質成長率2%程度を政策努力の目標」として取り組む。
為替市場の過度な変動は経済・金融の安定に悪影響を及ぼすものであり、引き続き市場を注視し、適切に対応するとした。 また、「国際金融市場の変動への備えとして、諸外国、国際機関との連携の中で、国際金融市場の安定確保に資する施策を幅広く検討し、所要の施策の推進に努める」としたほか、「欧州の政府債務危機を背景とした国際金融市場の不安定化やわが国経済への影響に対しては、政府は警戒感を日本銀行と共有し、緊密に連携する」ことを明記した。
財政健全化では、欧州政府債務危機で各国の財政の信認への関心が高まっているとし、社会保障制度や財政への安心感・信頼感を高めるため、社会保障と税の一体改革成案を早急に具体化する、とした。
新成長戦略としては、わが国の構造転換を進め、日本再生をさらに力強く進めていくため経済、社会、国際の3つの「フロンティア」を提示。経済のフロンティアでは、企業の成長、事業再生などをファイナンスする成長マネーの供給を拡大し、必要な資金が新たな成長産業・市場に提供されるよう、金融資本市場の機能強化を推進する。
政府は「日本再生の基本戦略」の策定を受け、今後、2012年年央の「日本再生戦略」策定に向けて施策の具体化をさらに進め、数値目標や達成時期、工程などを明らかにしていく。(ロイター)
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