河村たかし名古屋市長が中国共産党南京市委員会の代表に、「南京で戦闘はあったが、南京事件はなかったのではないか。討論しつつ、仲良くしていきたい」と提言したところ、南京市は名古屋市との姉妹都市交流を一時中止するという報復措置をとり、3月に予定された「南京ジャパンウィーク」を延期した。
中国共産党機関紙『人民日報』が「必ず代償を払うことになる」と恫喝し、日中の柔道交流も中止され、中国のマスメディアは観光客の「名古屋ボイコット」を煽っている。
これに対して、藤村修官房長官は「南京ジャパンウィーク」について、中国側が「出演者の安全面の確保などを考慮したと聞いている。国交正常化40周年の今年のしかるべき時期に開催できるよう調整していく」「村山談話以来、政府の姿勢は変わっていない」と述べた。
うまずたゆまずくじけずに整えていく
村山談話は「植民地支配と侵略」を謝罪したものであって、南京事件に触れたものではないから、まったく見当違いだが、中国といえばすぐに膝を折って、土下座する条件反射が、身についているのだろう。
私は「南京事件の真実を検証する会」の会長をつとめてきたが、日本軍が南京攻略に当たって虐殺を行った事実は、中国側の記録を丹念に調べてみても、まったくない。
相手をたてることと事実を客観化することは両立する
日本政府としては、河村発言に対して南京市がとった措置に対して、不快感を表明するべきだった。中国側は南京で30万人が虐殺されたと主張してきたが、このような言掛りは日中友好を阻害するものであって、両国が虚心に討論することが望ましい。
日本国民は中国がどのような国であるか、はっきりと認識しなければならない。
中国は専制国家で、言論、集会、結社の自由がまったくない。政権が都合に合わせて、情報を粘土細工のように操作してきた。信教の自由も存在しない。宗教は党の厳しい管理下にある。人権という発想がない。
誤りを正すのにはばかることなかれ
中国共産党政権は国共内戦を除いて、中華人民共和国の成立以後、大躍進運動、人民文化大革命、天安門広場事件をはじめとして、数千万人にのぼる自国民を殺している。
日本軍が残虐行為を働いたと宣伝して、国民に徹底的な愛国教育を施しているが、自ら行った残虐行為から目をそらせるとともに、政権の正統性を支えていたはずの共産主義が、名ばかりになってしまったために、それに代えて愛国主義――反日感情――を柱として縋っているからだ。
中華人民共和国は中国3千年の歴史を通じて、繰り返し登場しては滅びた中華帝国と変わらない。日本には中華人民共和国という国名によって、いまだに誑(たぶら)かされている向きもいようが、人民による国でも、共和国でもない。
まず中華人民共和国は、貴族が治めている国だ。このような国は21世紀の世界において珍しい。前近代的な封建国家だ。
中国の最高権力者の圧倒的大多数が、毛沢東とともにこの国を築いた、古参幹部の血を享けた太子たちである。ひと握りの3百あまりの一族が、中国の政府、軍、国有企業をはじめとする経済界を握っている。
支配する階層
胡錦濤国家主席が共産主義青年団グループに属し、10月に最高指導者となる習近平副主席が、毛並みの良い太子党グループとして区分けされている。太子党はその血筋から、中華人民共和国の株主グループに似ているが、共青団も同じ穴の貉(むじな)だ。
中国で権力を握っているのは、建国当時の古参幹部の高貴な血を受けた者か、幹部の側近をつとめることによって、権力の座に貴族として引きあげられた者だ。習近平は毛沢東の戦友だった習仲勲国務院副総理の子で、耿飈副総理の秘書をつとめたが、胡錦濤は鄧小平の娘の鄧楠と、胡耀邦の息子の胡徳平によって、引き立てられた。
軍も、中国のオーナーだ。共産政権は軍事力によって支えられている。軍幹部についても同じ構図がみられ、貴族の出身者が多い。
2010年6月をとれば、人民解放軍のトップの57人の将官のうち34人が、中国共産党の最高幹部を兼ねている。軍人が7人の党政治局員のうち2人、党中央委員の56%に当たる32人を占めている。
将官には、毛沢東の孫、鄧小奇の令息、胡耀邦の娘婿をはじめとする、多くの貴族が連なっている。
これまでの中国の経済成長は、目覚ましかった。中国は貪欲な権力者が群がる、巨大な甘い蜜の壺となっている。
ブロンバーグ・ニュース
『ブロンバーグ・ニュース』によれば、全国人民代表大会の2987人の代議員のなかで、上位70人の富裕者の私財を合計すると、4931億人民元(約5兆4千億円)にのぼるが、535人のアメリカ上下院議員について、同じように上位70人の富裕者の私財を合わせても、480億ドル(約3800億円)にしかならないと、報じている。
これは米中の1人当たり国民所得を較べると、アメリカが中国の10数倍であるから、途方もない巨額となる。もちろん、中国には政治家の財産を公表する制度がないが、日本の国会議員の私産を中国と較べてみたら、小沢一郎氏や、鳩山邦夫、由紀夫兄弟を含めても、貧しいものだ。
ロンドン・タイムズ紙
『ロンドン・タイムズ』紙によれば、中国トップの12の不動産会社は、すべて党最高幹部の子によって支配されている。巨額の利益を生む有料道路のオーナーの85%も、高官の子弟である。2010年に、中国で1600万ドル(約1億2800万円)以上の年収があった3220人の91%が、党幹部の子たちであったという。
中華人民共和国は、巨大な同族会社のようなものだ。収賄、横領などの腐敗が日常茶飯事として、蔓延している。もっとも、これは数千年にわたる中国社会のありかただ。
中国には、1千万人にのぼる公務員がいる。全員がこぞって上の真似をしているのは、不思議でない。中国には日本語のどこを探してもない「官禍」、「清官」という言葉が存在してきた。「清官」というのは、清潔な役人が今も昔もきわめて稀だったからだ。
孔子の復権の意味
高度経済成長が軌道に乗るにつれて、中華人民共和国において先祖返りが進んだ。毛沢東時代には「批孔」といって儒教を封建思想として、孔子を排撃し、全国にわたって孔子廟を襲撃して破壊した。
ところが、いまでは政権が孔子を称えて、「孔子研究所」を全世界に輸出するようになっている。ノーベル平和賞の向こうを張って、「孔子平和賞」まで設けて、世界の物笑いになっている。
毛沢東、カール・マルクス、孫文は、1851年から1864年にかけて清朝末期を揺さぶった太平天国の乱を、社会主義革命の先駆けとして賞讃した。
太平天国の乱は私有財産を否定し、土地を平等に分配し、貧富の差をなくして、男女を平等にし、異民族である満族による支配である清朝を倒すことを標榜して、中国の中心部の18省のうち、14省を支配下に収めた。その後、政府軍によって討伐されて終息した。
1979年の訪中
私が中国に招かれて初めて訪れたのは、1979年のことだった。男女ともに全員が粗末な人民服を着て、貧しく平等だった。私は「太平天国の中国に来た」と、思った。
毛沢東時代には、清朝の漢人の将軍で、「名教礼教(儒教の教え)を守れ」という大義名分を掲げて、太平天国の乱を討伐した曽国藩を裏切り者として非難していたのに、いまでは曽国藩を愛国者として称えている。
曽国藩はその功績によって、清朝から侯爵を賜った。現政権は反乱を恐れている。
いまや、中国は儒教国家となった。マルクスを捨てて、孔子を崇めている。儒教は為政者が絶対に正しいという、統治思想である。共産党は特権を守ることに、汲々としている。
杜父魚文庫
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