国有銀行の金融市場寡占は改革の妨げ、もっと迅速な規制緩和を。温家宝首相、またも大胆な提言をなし、実業界と行政高官らは溜飲を下げたが・・・。
温家宝首相と会見した外国要人は「開明的で民主的政治家だ」と高く評価する。外国メディア、とくに欧米のマスコミは温家宝を激賛するが、国内での評価は低い。ひとり、浮き上がった存在で、しかも上海派や太子党とは遠いが、団派とも距離をおく、無派閥。一匹狼的存在である。
4月4日、温家宝首相は国営ラジオ(中国中央人民広繙電台)に出演し、銀行の改革を訴えた。内容は以前からよく指摘している内容の繰り返しに過ぎないが、今回は国有銀行の遅遅としてすすまぬ改革プロセスに業を煮やしての発言と取れる部分がある。
「四大国有銀行は競争もなく、独占状態で儲けすぎである。厳密なコントロールの下、こうした独占体制を突破しない限り、金融改革はあり得ない。プライベートな投資をもっと受け入れよ」とした。
実際に四大銀行の2011年度の収益は合計990億ドルの経常黒字を記録した。こうした国有企業にのみ貸し付ける四大国有銀行の金融市場寡占状態は金融改革の妨げ、もっと迅速な規制緩和をと温家宝首相が大胆な提言を繰り返したわけだが、この発言に中国の財界、行政高官らは溜飲を下げた。外国メディアは大きく報じたが、国内ニュースでは軽視された。
四大銀行とは中国工商銀行、中国建設銀行、中国農業銀行、中国銀行の四行。これに交通銀行をくわえて「五大銀行」と呼ぶこともある。
実際には浙江省温州を「試験市場」として私営銀行許可ならびに温州の市民に限り、海外への直接投資を認める。うまく行けば、これを全国規模に広げようとするものだが、銀行改革という大まかな文脈から言えば、地域的、テスト販売の域を抜けない。
外国から中国株式への投資も現行から800億ドル台へ枠を広げ、また四大銀行の株式も外国勢に門戸を拡大する。
とはいえ非効率的経営と殿様商法にあぐらをかく四大国有銀行の改革がおいそれとすすむかどうかは不透明、温家宝演説は過去十年の改革の努力の最後の叫び、実業界は多いに期待するだろうが北京の党中枢は戸惑うばかり。
たとえば中国工商銀行だけで、従業員数は397339人、建設銀行41万人。中国銀行が27万9000人。第五位の交通銀行にしても従業員は85290人(農業銀行は不明だが、一説に30万以上)。ちなみに我が国トップの三菱東京UFJ銀行の従業員は、およそ五万人、みずほ銀行が2万7千人。
肥大化した組織と「親方五星紅旗」にどっぷりと依存した経営体質の銀行が、自由競争の荒波に漕ぎ出せるか、どうか。
杜父魚文庫
9408 一匹狼的存在の温家宝首相 宮崎正弘

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