9412 書評・高橋洋一『借金1000兆円に騙されるな!』  宮崎正弘

「日本は破綻寸前?」怪しげな経済情報に騙されていないか。暴落とか、破綻とかは「文系」の言葉で定義も曖昧なのに?
<<高橋洋一『借金1000兆円に騙されるな!』(小学館101新書)>>
世の中を惑わせ、迷いごとを声高に主張し、世間をあざむき、国家利益の基本を誤らせる政策を遂行しているのが野田政権だが、裏で操っているのは財務省と日銀である。
両者は共同戦線ではなく、個別に輻輳しているが、しかし多くに利害が共通するので共同戦線のときもあり、この戦列に日本経済新聞が加わる。一知半解のエコノミスト、御用学者らが合唱する。
だから世の中に逆さまの議論が溢れる。曰く「このままでは財政が破綻する」「国債は暴落する」「増税しなければ景気は悪化する」等々。
日本の借金はイタリア並みか、それ以上に悪化しているという数字がある。これは作為的な数字で、背後の情報操作に一般民衆も投資家も気がついていない。
官庁エコノミストばかりか、証券系銀行系エコノミスト、アナリストも本質からずれた議論をしていて、ときに町の評論家のほうが的確である。
財務省、日銀のプロパガンダに反論する最強の武器となりうるのが本書である。
要するに増税議論が沸騰し、日銀がほくそ笑み、財務省が笑う構造とは、舞台裏の数字を操作し、文系的比喩で実証主義反論を封じ込める情報操作にある、と著者は言うのである。
まず日本の経済を論ずるのに『破綻』とか「暴落」とか文系の表現が出てくるのは、なぜか。
「日本では、経済学部は文系の一角であり、理系の人間はまず進学しない」ゆえに、「日本の経済学部には、世界的に見れば経済学に適した人がやってこない」ところに悪質な問題点がある。
日本の純債務は350兆円でしかないと著者の高橋教授は言う。S&Pなど格付け機関がもったいぶってやっている作業の中味は、『適当にやっているだけ』と氏は経験を踏まえて断言している。
「そもそも格付けは文系的発想」であるとも断言を連続。
『日本国債が危険』という奇妙な説を売り歩く人々がいるが、では政府資産を考慮すると、イタリアが130%なら日本は70%、その証拠はCDSの保証料を比較すれば簡単に理解できると言う。
イタリアは4%強、スペインは4%弱に対して日本は1・2%程度だ。つまりマーケットは冷静に冷徹に日本国債の強さを知り抜いているのだ。
そして日本の余力は「あと900兆円の国債を発行」してもOKであり、そのためには日銀法の改正が必要であると断言的指摘が最後まで連続する快著。
杜父魚文庫

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