9424 反米を解剖すると 古森義久

■超大国のイメージと現実
いまの世界で好きにせよ、嫌いにせよ、アメリカという国についてなにも考えない社会人というのはまず存在し ない。アメリカはその点でイギリスやフランスとも、そして中国とも異なる。では諸外国の人々はどんなことを考え、感じるのか。そのアメリカへの認識は正し いのか-米国でいま話題の新刊書「アメリカン・アバター(化身) グローバルな想像のなかの米国」が提起した挑戦的な課題である。
国際弁護士としての体験も豊富な著者、バリー・サンダーズ・カリフォルニア大学教授はワシントンでの講演で、諸外国での米国のイメージの矛盾や錯綜(さくそう)の実例を次々にあげた。
「最近のリビアからの報道によると、内戦の銃撃で負傷した24歳の青年が『アメリカはリビアへの帝国主義的な侵略で石油を奪おうとしている。だがアメリカは自由の国であり、私は大好きだ』と語ったそうです。この愛憎の混在は典型的です」
サンダーズ教授はそして各国の識者が米国に対して抱くイメージとして「豊かさ」「強大さ」「偽善性」「人種差別」「革新性」「帝国主義」「民主主義」「自由」「人権」などを列挙した。ただしイメージはあくまで現実とは別であり、受け手がどんなレンズを使うかで正確とも過誤ともなってくる。米国を希望や理想や繁栄の超大国として愛するか、傲慢で無知で独善の覇権主義国家として憎むか、は考察者の立場や思想次第だというのだった。
だが同教授は各国での負のイメージをできるだけ前向きに変えることが当然ながら米国にとって必要だと説く。そして著書のなかで米国政府が諸外国の国民を目標とする広範な外交活動により以下の諸点をアピールすることを提案していた。
「米国は対外的に揺らがず、同盟など他国の利益を守るための誓約責務を厳守する」
「米国は開かれた心に基づく開かれた社会」
「米国は他国民にも思いやりを抱き、その安全にも配慮する」
「米国は民主主義と人権の擁護の哲学的原則に常に沿って行動する」
こうしたアピール自体がこれまたどこまで現実に合致しているのかという疑問も当然、提起されるだろう。だがサンダーズ教授のこの提言部分で興味深いのは、 米国がこの種のアピールをしてもまったく無駄な種類の人たちが諸外国には存在する、という指摘だった。
「排外主義、民主主義否定、神秘主義、空想主義などを実践し、近代性、合理性を排することで自己の既得権利を死守しようとする勢力にとってはアメリカの存在はすべての自己否定につながります。米側としても この種の人たちに説得を試みるべきではなく、はっきりと敵対勢力として位置づけるべきです。彼らは米国が衰退し、米国であることをやめない限り、満足はしないからです」
和解不能の反米とみなす勢力との厳しい対決の姿勢だといえる。
さて米国のイメージといえば、最近の日本では環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)をめぐる論議での反対派からの「米国が仕掛けたわな」という式の対米認識がおもしろかった。「TPPは米国が日本人同士の助け合う精神を破壊し、米国のために競わせ排除しあうように仕向ける策謀」という主張だった。この種の主張はサンダーズ教授が描く構図では果たしてどのへんに位置づけられるのだろうか。
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