自衛隊はどうしてあれほど我慢強く、長期の作戦に耐えることが可能だったのか。写真と活動記録と隊員達のアンケートなどを総合して、その伝統とDNAを分析 。
<<荒木肇『東日本大震災と自衛隊 ――自衛隊は、なぜ頑張れたか?』(並木書房)>>
鬼気迫るほどの活躍を示し、被災地から涙とともに深く感謝された自衛隊。トモダチ作戦で応援に来てくれた米軍にも感謝したが、命がけで任務を全うし、すがすがしい印象をのこしたことは日本国民に強い衝撃をあたえた。
爾後、日本で自衛隊を「税金泥棒」と非難する声はまったく聞こえなくなった。本書のテーマは「なぜ、自衛隊はあそこまで長期に、休暇も取らず頑張ることが可能だったのか」である。
自衛隊に協力を求め、多くにインタビューした筆者はアンケートも試みる。およそ400通の回答があり、また写真の協力を要請したところ、たちまち5000葉もの写真が集まった。
本書に掲載されたカラー写真、およそ150葉、白黒写真は数知れず。いずれも生き生きと、現場の救援活動を活写している。
「なぜ自衛隊は長期戦を戦い、任務を全うし得たか」という動機が著者を動かした。そして日本の歴史と伝統的システムが欧米とは完全に異なることを改めて認識する。これは救援活動の記録であるが、同時に日米比較文化論になっている。
鎖国していた日本には武士道精神が純粋培養されたが、この伝統的システムの体質が現在の自衛隊に受け継がれている。トモダチ作戦をともに展開したアメリカ兵士は、非番の日にはとなりでトレーニングに励んだり、ランニングをしている。
戦線でも「休暇」によるローテーションが組まれて、帰休兵と、これから戦地へ赴く部隊とが同じ汽車に乗ることもある。
日本の軍隊は欧米の軍とは異なる。それは何か? 歴史と文化論に迫るなかで、自衛隊救援活動の全貌を描いた労作となった。
杜父魚文庫
9440 書評「東日本大震災で自衛隊は、なぜ頑張れたか」 宮崎正弘

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