東京国際大学 国際交流研究所のホームページに、私が同学で昨年5月7日に行った講演が載りました。もう30年以上も、ワシントンに年2回は通っています。この春も、ワシントンを訪れました。いつも、政権の中堅幹部、議会スタッフ、シンクタンクの研究員などが集って、私の話をききます。今回は以前、私が話したことが話題になりました。
「ミスター・カセは2001年にユーロが登場したときに、かならず失敗すると予想しました。それが当たりました」
なぜ、ユーロが失敗すると、10年前に私が予想したのか。呼称が母音で終わる通貨は、かならずダメになると考えたからです。
一昨年から、ギリシャが発端になってユーロ信用危機が、世界を揺さぶっています。
ギリシャの通貨ドラクマDrachmaはaで終わっています。ポルトガルの通貨エスクードEscudo、スペインのペソPeso、イタリアのリラLiraは、いずれも母音で終わっています。何よりもユーロEuroそのものが、母音で終わっています。通貨の呼称が母音で終わる国は、必ず財政が破綻します。
ワシントンの友人たちは、これを「カセズ・ロー(カセの法則)」といっていますが、アメリカのドルDollar、ユーロに入らなかったイギリスのポンドPoundも、わが円Yenも大丈夫です。
法則にしたがえば、ロシアのルーブルRubleも、信頼できない通貨です。極めつけは、中国の人民元Renminbiで、母音で終わっています。
みなさんの注目にひいた「カセズ・ロー」のなかに、もうひとつ、全体主義国家、あるいは独裁国家が夏期五輪大会を主催すると、体制が9年後に必ず崩壊するというものがあります。
ナチス・ドイツは、1936年にベルリンオリンピック大会をはなばなしく主催してから、9年後の1945年に崩壊しました。
1980年に、ブレジネフ書記長によって、モスクワ・オリンピック大会が開催されました。その9年後に、ベルリンの壁が倒壊して、ソ連が消滅しました。
中国は2008年に、北京五輪を主催しましたが、法則にしたがえば、9年後の2017年に崩壊することになります。その可能性は、かなり高いと思います。いま、バブル経済がはじけ、これまでひたすら縋ってきた高い経済成長が、続かなくなっています。安定が崩れるのではないか。
1月にチュニジアで、ベン・アリ独裁政権に対して、民衆が立ち上がりました。それに続いて、リビア、エジプト、バーレイン、イエメン、シリアなどの諸国に、たちまち拡がりました。
西側のマスコミは「アラブの春」とか、「民主革命」と呼んで喝采し、囃し立ててきました。日本のテレビや新聞は、いつものことですが、西側のメディアに追従しました。
マスコミの報道や解説は、まず疑いましよう。2001年にユーロがヨーロッパ統一通貨として登場した時に、イギリスの『ファイナンシャル・タイムズ』紙――日本経済新聞が手本としている――も、日本の識者も、ユーロが世界の基軸通貨として、ドルを凌駕することになると、報じました。
私は中東イスラム圏も研究してきました。私は1970年代末から、三井物産、日商岩井(現双日)の中東の顧問をつとめました。
現在、中東で進行している民衆の騒乱を「ジャスミン革命」とか、「春」とか呼ぶのは、愚かなことです。
これから、チュニジアや、エジプトで自由な選挙が行われることになりますが、チュニジア、エジプト、リビアの独裁政権のもとで不合法化され、弾圧されていたイスラム原理主義のムスリム同胞団が、圧勝することになるでしよう。これまでイスラエルさえ除けば、北アフリカから中東まで、1度として民主主義が行われたことがありません。
イスラム原理運動は、7世紀に教祖マホメットが啓示した、『コーラン』の厳しい戒律が行われた時代を再現しようとするものです。イランを支配するイスラム僧たちや、アルカイーダと、同じ根を持っています。
ムスリム同胞団が弾圧されても、力をまったく失わなかったのは、独裁政権のもとでもモスク(イスラム寺院)が、民衆の日常生活の拠り所となっていたからです。
私は中東の独裁政権に、けつして好意をいだいていません。
しかし、イスラム原理主義者政権のもとでは、自由が失われ、少数派が排斥され、女性が蔑視されます。リビアでカダフィ政権が倒れると、強権によって抑えつけられていた地域対立が激化して、内戦に陥る可能性が高いと思います。リビアは100以上の部族から、構成されています。きっと、チュニジア、エジプト、リビアの多くの国民が、独裁政権時代のほうがよかったと、懐かしむことになるでしよう。
西側のマスコミが、チュニジアのチュニス、エジプトのカイロや、リビアのベンガジの街を埋めて行進した数十万、百万人の群衆が、まるでアメリカ建国の民主主義の父であるトマス・ジェファーソンの生まれ変りのように報じていますが、浅薄なことです。
いまの社会は情報が氾濫しています。情報の津波によって、押し流されてはなりません。インターネットや、携帯を指先を使って、情報を瞬時に取り出すことができます。お猿さんだって訓練すれば、同じことができるはずです。
私はしばしば「先生は情報をたくさん持っていられる」と、いわれます。日本では先生といえば、マッサージ師も美容師も先生です。美容師もマッサージ師も、尊い仕事ですね。
そういわれると、私は怒ります。「情報といわずに、知識といって下さい」と、たしなめます。情報はいくら沢山あっても、何の役に立ちません。無価値です。しっかりとした知識を蓄えていなければ、正しく分析できません。
ある国の行方を判断しようとすれば、その国の歴史と、文化を学ぶことが必要です。
日本にとって日米関係は、かけがえのない命綱です。日本が中国や、ロシアや、韓国に対して、卑屈な態度をとりながらも、何とか一人前の口がきけるのは、アメリカの軍事力が後ろ盾となっているからです。
鳩山内閣で何の成算もないのに、沖縄の在日米軍の普天間基地を、「国外、最低でも県外に移す」といったために、日米関係が大きく揺れました。
ところが、その後、日米関係が好転しました。
中国が異常な軍拡を進め、日本の尖閣諸島だけではなく、ベトナム、フィリピンをはじめとする東南アジア諸国を露骨に脅かすようになったために、アメリカが中国を脅威としてはっきりと認識するようになったからです。
アメリカがアジア太平洋を舞台として、中国と対決しようとすると、どうしても日本を味方にしなければなりません。
鳩山首相は「沖縄の米軍について学べば学ぶほど、抑止力として大切なことが分かった」といって反省しましたが、後悔先に立たず。菅首相はそれを見て、外務省のいうままになることにしました。
だが、私たちがいくらアメリカがいとしいといっても、アメリカは外国です。未来永劫にわたって、日本を守ってくれる保障はありません。3月の東日本大震災の教訓は、「自分の身は、自分で守らなければならない」ということです。他人まかせにしてはなりません。これから、日米関係も不安ですね。
このところ、日本が漂っているようにみえます。
尖閣諸島をめぐる中国の暴挙、竹島をめぐる韓国や、北方領土をめぐるロシアの傍若無人な態度――日本は中国、韓国、ロシアによって、すっかり侮られています。
中国から南京大虐殺、韓国から慰安婦問題をとりあげて、言い掛りを突きつけられるたびに、政府はすぐに膝を折って許しを求めますが、南京で30万人の市民を虐殺したというのも、日本がふつうの娘さんたちに慰安婦になることを強制したというのも、まったく事実無根です。私は日本の南京事件の代表的な研究者が属している、「南京事件の真実を検証する会」の会長をつとめてきました。
先の対米戦争についても、日本が戦争を仕掛けたもので、一方的に悪かったという、歪められた歴史観が罷り通っています。日本は最後の瞬間まで、対米戦争を避けようとしたのが、真実です。
戦後の日本は諸外国によって、自国の歴史を盗まれた国となっています。先人たちが血と涙でつくった歴史は誇るべきものです。歴史は国の魂です。魂がない抜け殻のような国です。根がないから、漂うほかありません。
外交力が、どういうものかと言いますと、まず、その国が正しい歴史観を持っていることが、求められます。
軍事力も、重要です。軍事力を欠いた国は、虚弱です。そして、エネルギー及び資源も含めた経済力です。それに、交渉技術です。これらが重なって、外交力がつくられます。
このところ、「失われた10年」が20年になって、毎年、日本経済が活力を失っています。日本を除く先進諸国は、この20年間で経済規模を2倍にしたのに、日本は横這いで1.2倍です。これは、政治の責任です。日本は世界第3位の経済大国に、転落しました。 それだけ、日本の世界における存在感が小さくなりました。
野田首相は口を開けば、「増税」だといいます。それよりも、景気を回復することです。このままゆけば、「ドングリころころドングリコ、お池にはまって、さあ大変」「泥鰌(どじょう)がでてきて、コンニチハ」になります。日本は経済力を復活しなければなりません。
杜父魚文庫
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