今朝、夕刊当番のため出社したところ、中国総局(北京)の矢板明夫記者から、私あてに新刊の著書が届いていました。きっと、「あなたのブログで宣伝してくれ」という率直かつ切実なメッセージなのだろうと素直に受け止め、ここに紹介しようと思います。
この3月に刊行された「習近平 共産中国最弱の帝王」(文藝春秋、1400円)がそれで、矢板氏にとって初めての著書だそうです。実は、この本に関しては「なかなか面白いよ」と多方面から噂を聞いていたので、献本は渡りに船だったのです。矢板氏は「各派閥が妥協した結果によって誕生した最初の最高指導者であり、党内の各勢力に対しどこにも借りがある」「共産党歴代指導者の中で実力は最も弱いといわざるをえない」と分析しています。
まあ、これ以上の詳しい内容は実際に手にとって(購入して)確かめていただきたいのですが、私が午前中にざっと目を通した中で、面白いな、興味深いな、と感じた部分をいくつか挙げておこうと思います。矢板氏は自身が15歳のときに帰国した中国残留孤児2世ということもあり、年齢(たぶん40歳ぐらい)以上に年期の入った中国ウオッチャーです。
まず、まえがきに90歳を超えたある共産党長老との会話が出てきます。毛沢東の秘書も務めたことがあるというこの長老は、矢板氏にこう語ります。
「……人類の進歩を邪魔し、後退させるものも4つある。それは独裁、人治、愚昧と革命だ。毛沢東はまさにこの後の4つのことを中国で推進し、文化大革命を起こすなど国家を大混乱に陥れた」
なかなか率直な述懐であります。個人的には、民主党政権の発足まもなく、「政治の文化大革命が始まる」と舞い上がった発言をした仙谷由人政調会長代行のセリフをつい思い出してしまいました。
また、この本の「天皇陛下との特例会見にこだわった理由」という部分も、非常に興味を覚えました。私はこの問題を首相官邸担当記者として日本側から取材していたわけですが、中国にいた矢板氏はこう書いています。
《そもそも国家元首ではない習近平の訪日では、天皇陛下と会う外交上の必要性はなかった。にもかかわらず、こだわったのは、国内におけるポスト胡錦濤という自分の地位を固めたいという政治的な理由だった。》
《この会見で、習近平は李克強に決定的な差をつけ、自分こそポスト胡錦濤であることを強くアピールした。日本国内では小沢一郎による「天皇の政治利用」を批判しているが、実態では、習近平による天皇の政治利用といった方が正しいかもしれない》
この部分では、李克強副首相の方が小沢氏と長年の交流があったことなどもも指摘されており、「一番ショックを受けたのは李克強周辺かもしれない」と記されています。
あのとき、外務省と宮内庁の反対で、いったんは首相官邸も特例会見をあきらめたのですが、インドネシアで開かれたバリ人権フォーラム出席中の鳩山氏に小沢氏が国際電話をかけ、「いったい何をやっているんだ」と一喝してねじこんだと、私は関係者から聞いています。小沢氏は先物買いをしたのか、あるいは習近平氏にうまく利用されたのか。
あと、習近平氏ではなく江沢民元国家主席に関してもこんな言及がありました。さらっと書いてありますが、実になんというかいやはや……。
《江沢民の反日の原点は、少年時代に日本軍の犬に噛まれた経験があったからだといわれたが、数年前、著者が江沢民の家族を知る人から確認したところ、どうやら本当だったらしい》
うーん、最初は「日本軍の犬に噛まれた」とは比喩なのかとも考えましたが、どうもそのまま言葉通りに受け止めた方がいいようですね。まったく、犬の仕業で日本人もいい迷惑です。しかしまあ、世の中というのはこういう端からみるとくだらない些事、属人的な問題で動いているというのも、政治の世界を見ていると妙に納得がいくのでした。やれやれ。
杜父魚文庫
9512 北京の矢板記者から届いた献本と中国の新帝王について 阿比留瑠比

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