9535 太陽観測衛星「ひので」、太陽極域磁場の反転を捉えた  古沢襄

自然科学研究機構 国立天文台、理化学研究所、宇宙航空研究開発機構、米国航空宇宙局 (NASA)、英国科学技術会議 (STFC)、欧州宇宙機関 (ESA)による国際研究チームによる発表概要は次のようなものである。
ここでは太陽観測衛星「ひので」に搭載された可視光・磁場望遠鏡によって、太陽極域に黒点と同じ磁場強度を持つ斑点状の磁場(大きな斑点状磁場)が存在することが初めて明らかになったと発表した。すなわち、北極の磁場を担う斑点状の磁場の数が急速に減少し、低緯度から逆極性の斑点が現れた。この結果、現在太陽の北極域では、逆極性の磁場の大規模な消滅と極性の反転が発生していると考えられる。
今回の「ひので」の観測により、太陽の大局的磁場が四重極構造になる兆候が発見された。これらの観測結果は、太陽の内部で磁場を生み出すダイナモ機構の状態が、現代的な太陽観測が始まって以来初めて、変動を来していることを示している。
地球が寒冷であったと言われるマウンダー極小期やダルトン極小期には、太陽がこのような状況にあったと考えられており、今後の推移が注目される。
<国立天文台と理化学研究所の研究者を中心とした国際研究チームは、太陽観測衛星「ひので」に搭載された可視光・磁場望遠鏡により太陽極域の磁場観測を定期的に行ってきましたが、このたび、極域磁場の極性が通常より早く反転しつつあることを世界で初めて捉えました。これは、可視光・磁場望遠鏡が持つ高空間分解能・高精度偏光解析能力と長期間にわたり安定的に行われた「ひので」衛星運用による成果です。
現在、太陽活動は極小期を過ぎ、やや上昇してきています。今回の極小期の太陽磁場は、大局的に見ると、太陽の北極がマイナス極・南極がプラス極となっています。太陽の南北両極の極性は、2013年5月に予想される太陽活動極大期(黒点の平均的数が最大になる時期)にほぼ同時に反転すると予想されていました。
太陽の極域磁場は、太陽活動の源泉である黒点の源となっていると考えられており、その振る舞いは、今後の太陽活動を予想する上でも大変重要です。このため、これまで、地上の太陽望遠鏡により極性の反転が観測されていましたが、分解能が足りないため平均的な磁場強度と極性がわかるだけで、太陽極域で何が起きているのかわかりませんでした。
2007年9月に行われた、「ひので」衛星可視光・磁場望遠鏡の超高空間分解能と高精度偏光解析能力による観測によって、太陽極域に黒点と同じ磁場強度を持つ斑点状の磁場(大きな斑点状磁場)が存在することが初めて明らかとなりました。(参考: プレスリリース『「ひので」衛星、太陽極域に強い磁場を発見!』)
「ひので」衛星は、その後も極域の観測を、太陽活動の極小期をすぎ太陽活動が上昇しつつある4年間にわたり定期的に行ってきました。その結果、予想される時期より約1年早く、北極磁場がほぼゼロの状態に近づいていることが、2012年1月の観測で発見されました。すなわち、北極の磁場を担う斑点状の磁場の数が急速に減少し、低緯度から逆極性の斑点が現れました。この結果、現在太陽の北極域では、逆極性の磁場の大規模な消滅と極性の反転が発生していると考えられます。
この観測の結果から、太陽の北極磁場がまもなくマイナスからプラスに転じると予想されます。一方、驚くべきことに、南極では極性反転の兆候がほとんどみられず、安定してプラス極が維持されていることを、「ひので」は確認しています。
太陽の磁場は、大局的には双極子構造(例えば、太陽の南極がプラス、北極がマイナスの棒磁石のような構造)をしていますが、今回の「ひので」の観測結果から、南北の両方がプラス極になる四重極構造になると想定され、「ひので」の観測データを用いた太陽の磁場構造の把握を数値計算によって行っているところであります。
太陽の極域の観測は、今後の太陽活動を予測する上でも極めて重要です。太陽活動の前活動周期の終わりから今周期の始めにかけての極小期は、予想以上に長く続きました(通常の太陽周期が約11年なのに対して12.6年であった)。
また、現在までのところ、今周期の太陽活動は、前周期に比べて低調に推移しています。さらに、今回の「ひので」の観測により、太陽の大局的磁場が四重極構造になる兆候が発見されました。これらの観測結果は、太陽の内部で磁場を生み出すダイナモ機構の状態が、現代的な太陽観測が始まって以来初めて、変動を来していることを示しています。
地球が寒冷であったと言われるマウンダー極小期やダルトン極小期には、太陽がこのような状況にあったと考えられており、今後の推移が注目されます。

これらの研究成果は、これまでの太陽極域磁場の極性反転過程に対する認識に変更を迫る極めて重要な結果であり、2012年10月頃に北極域の集中観測を実施し、今後の推移を明らかにする計画です。「ひので」による研究の進展により、太陽のダイナモ機構に関する基礎研究や太陽の地球環境への影響の理解が進むと期待されます。>
■マウンダー極小期=おおよそ1645年から1715年の太陽黒点数が著しく減少した期間の名称で、太陽天文学の研究者で黒点現象の消失について過去の記録を研究したエドワード・マウンダーの名前に因む。
マウンダー極小期は中世における小氷期中頃の寒冷期の遠因と目され、この時期のヨーロッパ、北米大陸、その他の温帯地域において冬は著しい酷寒に震え、暦の上では夏至であっても夏らしさが訪れない年が続いた。
2010年、東京大学名古屋大学・名古屋工業大学の研究チームが、この時期の日本(江戸時代初期)は周期的に雨が多い湿潤な気候であったと奈良県内の老木の年輪を分析して結論付け、論文にまとめた。(ウイキペデイア)
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