9544 またまたオンライン世論が勝った「呉英事件」 宮崎正弘

女性実業家、死刑判決から一転して「地裁差し戻し」。浙江省の貧しい農家に生まれた呉英は小さいときから働き続け、十九歳で地元にネィル・サロンを開店した。目の覚めるほどではないが魅力に富む美人でもあり、才覚に恵まれた彼女のビジネスは奇跡的なバカあたりをして、25歳になる頃には不動産開発から食品販売までをあつかうコングロマリットに成長した。
呉英は06年に「中国富裕ランク」の68位に輝き、とくに女性経営者の典型的成功例として中国のメディアで騒がれた。
ビジネスが急発展すると運転資金が必要になる。彼女は銀行に日参したが冷たく断られ、しかたなく地下銀行から金を借りる。
浙江省は地下銀行の本場、国有銀行から借りる利息の4%増し程度、UBSの資産では浙江省だけで全中国の地下銀行の八割をしめ、その貸し出し総額は4兆元にのぼるという(ちなみに国有銀行の毎年の貸し出しは8兆元規模)。
さらに事業が膨張したため、呉英は投資家からも出資を募り、合計11人から3億8000万元を集めた。
生活も派手になりベンツやBMWなどを所有し、あちこちに別荘も持っていたため、地元からは呉英への嫉妬も広がった。
投資家への返済が焦げ付いた。よくある話である。呉英へ出資した投資家から焦げ付きの訴えがあると、浙江省地方裁判所は、彼女に「死刑「の判決。
 
あまりのことに中国のネット世論が俄かに沸騰、しかもボランティアで高名な弁護士が駆けつけ、さらには温家宝首相が同情的な見解を述べるに及んで、減刑嘆願の嵐に見舞われた。4月20日、最高裁は死刑判決を退け、本件を地裁へ差し戻した。
▼死刑後の遺体からすぐに臓器が摘出される
この事件は二つの闇の存在を改めて思い起こさせるのではないか。
第一に中国の死刑は日常茶飯、2011年も4000名が死刑になった。命の軽さもさりながら、死体はすぐさま病院へ運ばれ、臓器摘出のうえ、臓器市場へ売られるという闇の存在がある。
第二に民間企業が国有銀行から融資を受けられないという経済実態。金融システムのいびつさ、これをカバーするために地下銀行、さらには高利貸しの蔓延という闇。
 
薄煕来は重慶でマフィア退治を敢行したとき、13名をさっさと死刑にした。悪事がばれそうになると、捜査チームの二人を撲殺し(王立軍の部下)、夫人の谷開来は、英国人を謀殺したほか、過去に薄煕来の愛人だった女性四人を殺害した嫌疑があり、死刑は免れないだろう。しかし共産党トップの正室でもあり、死刑判決執行猶予ということに落ち着く可能性がある。
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