9547 天皇陛下のご訪英を危ぶむ 石岡荘十

天皇陛下のお姿を見た最新映像は、4月19日(木)の園遊会での模様だ。心臓バイパス手術から2ヶ月。順調に回復されたとお見受けしたが、最近は医学的な見解は報道されていないので本当のところは、はっきりしない。
ただこの間、3月29日(木)産経新聞が朝刊の一面トップで、天皇陛下心臓手術の執刀医である順天堂大学天野篤教授への独占インタビュー記事を掲載している。このなかで天野教授は「(胸水は)時間と気候が解決すると思う」と見通しを語ったと報じ、これを根拠に産経新聞は「天皇陛下5月のご訪英 可能」と断定して大見出しに採っている。
しかし、手術後の患者の予後、ケアに責任を持つのは、この場合東大循環器内科のはずである。執刀医である天野教授が、願望として「訪英できるほど回復されるように」と期待するのは無理もないが、術後の体調や今後の見通しについてなら、東大の永井良三循環器内科長に聞くべきだ。予後、手術後の患者管理体制について、どこが責任を持つのか、最新の情報を持っているのは誰か、記者はわかっていなかったのではないか。見通しについてまで執刀医に質すのは、医学的には筋違いというものである。
医療の世界ではEBM(Evidence-based Medicine)、つまり「医学的に根拠のある科学的な治療」が強く求められている。外科医に術後の経緯や展望を語らせるのは、「木に縁りて魚を求める」類の情報であって、これを根拠に天皇陛下の訪英の可能性を語る内容には医学的な根拠があるとはいえない。
来月中旬に予定されているエリザベス女王即位60周年記念祝賀行事については、60年前、陛下が皇太子だった19歳のとき訪英し、エリザベス女王の戴冠式典に出席されていることもあって、今回も出席を強く望まれているであろうことは容易に想像できる。しかし、天皇陛下の海外旅行については、政治的な配慮が必要となる。これまでのいろいろな前例が示すとおりである。
加えて今回は、ご高齢、心臓手術後という状況を勘案し、危惧・想定される諸問題をクリアしなければならない。渡英のハードルはいっそう高くなったと考えられる。
具体的にいうと、循環器内科の優秀な医師だけでなく看護師の同行が必要となるであろうし、万が一旅行中に体調が急変した場合を想定して、現地の医療機関との綿密な事前打ち合わせもしておかなくてはならないだろう。英国までは、10数時間の長旅である。機内で不具合が生じたときにはどうするか。万全を期さなければならない。
そんな事態になった場合、政治的な責任論が浮上するかもしれない。現政府にそんな決断が出来るだろうか。
週刊文春(4月12日号)が。「雅子さま『突然のご回復』公表」という記事を掲載している。このなかで東宮が“ご回復 ”をアピールしている。外務省に詳しいジャーナリストは「外務省は、宮内庁に、皇太子ご夫妻で行って頂いてはどうか、と内々打診している」と語った、と伝えている。
記事の真偽は不明だが、医学的には心臓手術後、3ヶ月は無理をしないようにというのが、常識である。エリザベス女王の即位記念行事は丁度、その3ヶ月後という微妙な時期に当たる。
術後問題となった胸水については、これまで2度、穿刺(針を刺して水を抜く)治療が行われたが、その後の経過については報じられていない。
陛下のご訪英については、いずれにしても慎重な判断が必要となる。関係者が水面下で調整を行っているのは間違いないものと思われる。             
杜父魚文庫

コメント

  1. ブルーリボン より:

    こんにちわ。とても良い話をありがとうございます。5月18日ウィンザー城でエリザベス2世の即位60周年公式記念晩餐会が開催されます。出席者は英国女王夫妻、日本皇帝夫妻、スペイン国王夫妻、スウェーデン国王夫妻、バーレーン国王、英国王族よりグロスター公夫妻と女王第3王子ウェセックス伯爵夫妻の予定のようです。想えばおよそ100年前ヴィクトリア女王のダイアモンドジュビリーでは3等国だった日本皇族はヴィクトリア女王と同室すら許されませんでした。今上様がガーター勲章を着用されて、英女王のダイアモンドジュビリーに出席する様を拝見できるのは隔世の感があります。今上様は戴冠式とダイアモンドジュビリーの双方に出席した唯一の王侯君主となります。同席者もスウェーデン、スペイン共に現存王室では最も由緒ある御家系です。またグロスター公は先代が戦前に昭和天皇のために派遣されたガーター勲章使節団の団長を務められた因縁がございます。しかも今年は10万人以上の英軍が日本軍の捕虜となったという、大英帝国史上最大の敗北を喫したマレー攻略・シンガポール陥落70年の年でもあります。英国は心臓血管外科では世界トップクラスですから、不測の事態があっても何の心配もいりません。平和とは有り難いものでございます。

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