日本国憲法とアメリカとの相関関係のレポートの最終部分です。アメリカ側では長年、日本の憲法改正には反対という向きが多数派でした。
それがいまや大幅に変わったということです。
アメリカが日本の憲法についてあれこれ述べること自体がおかしいという意見もありますが、憲法の起草がすべてアメリカ側でなされたこと、そして憲法が制約した日本の防衛をアメリカが請け負ってきたこと、を考えると、アメリカの政策は無視できないでしょう。
私は、民主党ジョン・F・ケネディ政権に重用されたリベラル派の知性ジョン・ガルブレイス氏に質問したことがある。日本の憲法は米国側としてどう位置づけるか、という問いだった。
「日本は現在の憲法を絶対にそのまま保つべきです」
ガルブレイス氏はためらわずにそう答え、その理由として日本が憲法を変えようとすれば、東アジアの安定が崩れるという見通しを指摘した。
その数年前、米国民主党系の知日派領袖のエドウィン・ライシャワー元駐日大使も、憲法についての私の問いに対し、「日本の振り子は激しく揺れ動きすぎます」という答えを返してきた。日本は政治的、対外的に激しく変わりすぎ、改憲で軍事活動の正常化が許された場合、軍国主義の方向へと回帰する可能性も否定できない、というのだった。
改憲に反対する見解の遠まわしな表明だった。日本はまだまだ信頼できないという認識のさらに遠まわしな表明だったとも言える。
しかしその一方、90年代には同時に米国の保守派の間で、日米同盟の強化のために日本が憲法での防衛面での自縛を解くことが米国をも利するという意見が広がってきた。
92年にはヘリテージ財団が「米国は非公式に日本に改憲を促すべきだ」とする政策提言を発表した。「マッカーサー憲法は、現実の世界で欠かせない力の行使や戦争をすべて否定することで日本に例外意識を与え、国際社会の正常な一員となることや、日米同盟に十分な寄与をすることを妨げてきた」と説いたのだ。
世界でも自分たちは例外なのだという意識が日本国民の多くに染み込み、国際的な安全保障問題はもちろんのこと、日本自身の安全保障さえも、正面から考えようとしない「例外意識」だという指摘だった。
当時の先代ブッシュ大統領も公式記者会見でこの提言を認め、日本が改憲を求めるならば米国としては問題はないと言明した。日本を同盟パートナーとして信用するという姿勢だった。
防衛力が実際の戦闘に使えないのは憲法のせい
21世紀に入った米国でもなおニューヨーク・タイムズ社説のように「日本の憲法改正は危険な軍国主義志向」とする日本不信の改憲反対論は一部に存在する。だが、大勢は日本の憲法改正の奨励、あるいは容認となった。
国政レベルでは、日本が日米同盟を堅持し、民主主義国として米国との共通の価値観を保つという前提さえ保てば、米国は日本が改憲を進めることを暗に奨励するだろう、という見解がここ数年、大多数となった。
そうした見解の識者でも、日本の改憲への賛否を正面から問われると、当面は日本が憲法解釈を変え、集団的自衛権を行使できるようにするだけでも日米同盟強化への効果は十分に大きいと答える向きが少なくない。
だが、民主党クリントン政権で国防総省日本部長を務めたポール・ジアラ氏は、「日本の現行憲法は、日本の政府や国民に防衛力は保持しても実際の戦闘に使うことは絶対にないのだという政治心理の枠をはめている点で、明白に日米同盟への障壁であり、改憲が好ましい」と述べるのだった。このあたりが米国側識者の本音だと言えるだろう。(終わり)
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9619 日本の改憲に反対したアメリカ側識者たち(完) 古森義久

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