ゴールデンウイーク最後の日、六日である。一年365日がゴールデンウイークになった私だが、人並みに連休の最後の日を楽しむつもりでいる。
東京で生まれ、東京で育った私だが、どういうわけか都会の喧噪よりも、時間がゆっくり流れる農村の生活の方が好きである。地方勤務が終わって本社に戻ると、朝の出勤でセカセカと前のめりになって歩く人の流れについていけない。一ヶ月もすると慣れるのだが、自分がベルトの上に乗っている違和感が残る。
何故だろう。戦前の東京には時間がゆっくり流れる余裕空間があった。夕方になると父と母に連れられて神楽坂の散歩に行く日が多かったが、夜店のブラブラ歩きが懐かしい。
月に何回か、浅草に出て隅田川のポンポン蒸気に乗り、下りたところで行きつけの店で大阪寿司を食べた。店の前に九官鳥がいて「オハヨウ」と啼く。
”お江戸”の風情を残した東京の姿が消えた戦後の東京は、無機質な高層ビルが林立している。
嘆いても仕方ない。東京を脱出して、利根川を渡ったところについの棲家を求めて二十年がたつ。距離を置いて大東京を眺める習慣が身についた。
話はガラリと変わるが、森喜朗さんが無所属でトップ当選したのは昭和四十四年。旧赤坂プリンス・ホテルの清和会事務所で福田赳夫さんから紹介された時には、相撲取りのような田舎人だなと好意を持った。付き合いも長くなったが、素顔の森さんは誠実でサービス精神に富む。
姉さん女房の千恵子夫人の尻に敷かれたところがあるが、夫婦円満が続いている。千恵子夫人は杜父魚ブログをよく読んでいる。最近は森さんとの交友が途絶えていたが、「ご無沙汰しているが、女房に言われて・・・」と懐かしい声を聞いた。電話の向こうで大きな身体を恐縮してみせる姿が目に浮かんだ。
千恵子夫人は「古沢さんの手紙は別の文箱に入れているのすよ」と言ったことがある。あまり知られていないが、森さんは一種の整理魔。亡くなった早坂茂三さんが「過去のことをメモなしで喋る人だが、あとで調べると正確なので記憶力が抜群」と褒めていた。
サービス精神が旺盛なので、時々脱線して物議をかもす。”一言多い”のが災いしてメデイアに叩かれることが多かったが、柔な都会人ではないからめげない。幹事長、総務会長、政調会長をこなした党人だから、政局の読みについては抜群の才覚を持っている。
その森さんが産経新聞で、政局について語っている。いわゆる「政局観」という奴だが、保守政界の女帝の政局観とほとんどが一致している。二人の間には接点がないだけに面白い。一読するだけの価値がある。
<民主党の小沢一郎元代表に無罪判決が出たね。ある弁護士が「プロの法律家だったら無罪でしょうが、裁判員制度だったら有罪です」と言ってたけど、その通りになったな。小沢さんとカネの話は古くて新しい話でもあり、新しくて古い話でもある。つまりそれだけ長いってことだ。やっぱり疑惑は全然消えないよね…。
それでも小沢さんはまた動き出すだろうな。彼が面倒をみてるチルドレンは次の選挙が危ない連中ばっかりだから、その心理を見透かして「消費税増税反対の人はこの指とまれ」とやるのは手っ取り早いよな。うまいといえばうまいし、ずるいといえばずるい。
でも税制は絶対に政局のテコにしちゃいけない。ましてや消費税を創設した竹下登内閣で官房副長官を務め、細川護煕連立内閣で国民福祉税を仕掛けた人だよ。それに平成19年秋、福田康夫首相に大連立を持ちかけた際、彼は僕に何と言ったと思う?
「日本を救うためには大連立しかない。消費税増税を言った政党が選挙で負けるような国はよくないんだ。だから一緒にやろう」
こう言ったんだ。「民主党はまとまるのか」と聞いたら「大丈夫だ。選挙に勝って今なら俺のマジックが効いている。うちの連中はバカばっかりだ」とね。だから「そこまで言うならば」と福田さんに話を通したんだよ。それが今になって「消費税増税反対」なんてチャンチャラおかしいだろ。
でも小沢さんがそう動くならば、なおさら自民党はおかしなことをせずに堂々とやった方がいい。税と社会保障は将来の日本の背骨ですよ。今国会できっちりと結論を出すべきでしょ。
× × ×
大きな課題はまだある。衆院の「一票の格差」是正も待ったなしだ。最高裁が「違憲状態」と判断したんだからね。まあ、三権分立なのに司法が立法府の制度や配置にまで口を挟み、地方の有為な人材が次々に切り捨てられてよいのかとも思うけど…。
ただ、衆院選挙制度に関する各党協議会は一体何をやっているんだろう。党利党略そのものじゃないか。「一票の格差」是正と言いながら民意をねじ曲げる連用制を導入すればますますおかしなことになるに決まってるよ。
そもそも「政治の劣化」を言われるようになったのはなぜか。劣化するような政治家の選び方にしてしまったからじゃないのかな。対立候補より一票でも多く集めるためにポピュリズムに走り、税や外交など特定分野でコツコツと勉強する人には光が当たらない。大都会は選挙区が小さすぎるから地方議員に相手にされない衆院議員もいるんだよ。いずれも小選挙区制の弊害だと言えるでしょ。
先日、河野洋平元衆院議長が選挙制度改革の会合で小選挙区制導入について「自分にも大変な責任がある。不明を恥じる」とおっしゃったんだ。いや、立派…。過ちを正すことも大事なことなんです。現行の選挙制度を問題点を正す。しかも中小政党に不利にならず、民意を反映したい。
それならば中選挙区制に戻すしかないじゃないか。3人区をベースに都市部は4~5人区にする。公明党の故冬柴鉄三元幹事長がずっと主張された制度でもある。これならば公明党も共産党も堂々と議員を国政に送り込める。
選挙制度は小手先の議論をしたらダメなんです。各党がお互いに我を張ってこのまま何も決まらなければ「政治家は何をさぼってるんだ」と国民に見放されちゃうよ。
× × ×
新党もなにやら騒がしいね。選挙のにおいがすればするほどもっといろんな動きが出てくるだろうな…。
大阪維新の会を率いる橋下徹大阪市長も教育改革などで「結構いいことを言っているな」と思ってたけど、最近は国政に出ることに重きを置いてるようだよね。では大阪都構想はほっぽり出すのかな。「それは国政に進出するための手段だった」と言うのであれば、大阪府民をコケにしたことになるんじゃないか。
橋下さんは原発再稼働でも厳しいことを言ってるね。そりゃ、あれだけの事故が起きたんだから数十年のスパンで原発に頼らない方向に持っていかざるを得ない。でもそこまでの過程でやるべきことはたくさんあるでしょ。
福井の方々は本当にお気の毒だと思うよ。何も彼らはお金に困って、あの美しい海岸に原発を引き受けたわけじゃない。関西の人たちを助けるためでしょ。それなのに滋賀県の女性知事に「こっちは30キロしか離れていないんです」なんて言われてさ。まるで悪者扱いじゃないか。「福井では自分たちに必要な電力だけを賄います。あとはお好きにどうぞ」と言えばいいんですよ。
がれき処理の問題も根っこは同じだろ。都会の人が豊かに暮らせるのは田舎の人が支えているからでしょ。米も野菜も肉も魚も、そして電力も。それを「子どもの健康被害を考えたらがれきなんか持ってきてもらったら困ります」なんて、よく言えたもんだと思うね。日本人はいつから心を失ってしまったのかな。
× × ×
東京都の石原慎太郎知事の新党も一体どうなるんだろうね。「白紙だ」とは言ってたけど、尖閣諸島購入表明などは訪米前からずいぶん準備してたみたいだしな…。
でも2020年(平成32年)の東京五輪はどうするんですか。石原知事の名で申請したんですよ。しかも今度は単なるスポーツの祭典ではない。東日本大震災からの復興を世界に示すためにやるんでしょ。敗戦からの復興を掲げた1964(昭和39)年の東京五輪と同じくらい意義がある。「三丁目の夕日をもう一度」なんですよ。
それをまさか「もう五輪なんてどうでもいい」と当主が家出するんじゃないでしょうね。では花嫁さんはどうするの? ちょっと無責任じゃないかな。まあ、尖閣購入の一件で中国の支持を得るのが相当難しくなったのは確かだけどね。
それに新党構想はもともと国民新党の亀井静香前代表が温めてきたんだろ。実は1月23日の冬柴さんのお別れの会から帰京する時、新幹線で亀井さんと同席したんだ。その時、彼はこう言ってたんだよ。
「国民新党はもうおしまいだ。次の選挙で俺以外はみんな落選する。だからみんなを救うには橋下、石原両氏をくっつけて大きな箔(はく)をつけてやるしかない。俺はそれに命をかけるんだ!」
愛すべき男だろ。それなのに自分が作った国民新党まで追い出されちゃってさ。石原さんもちょっと冷たいよな。「自業自得だ」とはね。
亀井さんとは長い付き合いだからつくづく思うけど、彼は「男はつらいよ」の寅さんなんだよ。女に惚(ほ)れて、苦労してやっとの思いで困難を解決すると、女は別の男とくっついて「寅さん、ありがとう」って。それでまた旅に出るんだよな…。
× × ×
とにかく新党の影におびえていても仕方がない。まず連休明けの国会で与野党がどう責任を果たすか。国民はそれを見てるんだよ。
どのみち衆院任期はまだ1年以上ある。夏に参院選とのダブル選で雌雄を決すればいいじゃないか。何度も言うけど消費税の問題はもう先送りできない。お互い足を引っ張らずにきっちり結論を出すしかないでしょ。
それで民主党が割れても仕方ないじゃないか。小沢さんたち政局派、心の奥でなおも社会主義を信奉する人たち、そして自由と民主主義を信条とする人たち-の3つくらいにね。
そうなったら自民党も民主党も同じ旗の下に集まって一緒にやるべきだと思うよ。日本国のために。自民党も逆立ちすりゃあ民主自由党だろ。これを政界再編と言うならば、それはそれでも構わない。日本で本当の議会制民主主義が軌道に乗るかどうかの一番のチャンスかもしれない。
ここで大事なことは邪(よこしま)な気持ちを持たないことだ。小沢さんが20年以上政界再編を唱えて成就しないのはなぜだか分かるかい? 「国家のため」と言いながら、心の中では「自分がどう生き延びるか」と邪な気持ちを抱いてきたからじゃないのかな。
では野田佳彦首相に内に秘めたる闘志があるのか。もしかしたらあるかもしれないよ。「この世の闇におれが光をあててやる」という闘志がね。消費税に「命を賭ける」とまで言ったんだ。どうせつぶされるにしても、やるべきことをやって「男・野田はここにあり」ってのを見せてほしいな。(産経)
杜父魚ブログの全記事・索引リスト
9633 「うちの連中はバカばっかり」と小沢氏 古沢襄

コメント