9751 ロムニー候補は北朝鮮拉致を論じるか 古森義久

中国領内から北朝鮮へ拉致されたと疑われる米国人留学生デービッド・スネドン氏の行方がいよいよ国際的な脚光を集め始めた。
北朝鮮当局はその拉致を否定したが、スネドン氏の家族たちは逆に確信を深め、日本の拉致被害者の「家族会」などとの連携を保ちながら、米国の政府や議会に改めて解明を訴える構えを強めている。
スネドン一家のこの確信は家族が結束してこれまで徹底した調査を続けてきた実績からのようだ。デービッド氏の父親ロイ氏とともに現地調査の中心となった長兄マイケル氏が語る。
「現地では当初から北朝鮮の影を多様な形で感じていたが、中国当局への配慮などから具体的に表明することは避けていました。その影が今回、日本側からの新情報で明確な形をとってきた気がします」
スネドン家の調査報告書は迫力がある。マイケル氏ら家族3人は末弟のデービッド氏が行方不明となった2004年8月中旬から1カ月もたたないうちに現地の雲南省に入った。米国務省の支援に加え、独自に通訳とガイドを雇い、克明な調査を始めた。
スネドン一家はみな末日聖徒イエス・キリスト教会、つまりモルモン教の信徒である。だから家族の結束が強いのだろう。デービッド氏は北京に語学留学する前はモルモン教の宣教師として韓国で2年を過ごし、流暢(りゅうちょう)な韓国語を話すようになった。
彼は中国留学の終わりに雲南省を観光とチベット民族の考察のために訪れた。まずその地の名勝の虎跳渓のトレッキングに出かけた。十数キロにわたるこの峡谷 を南側の麗江市から入った。消息を絶った直後、中国当局も米国務省も彼が虎跳渓の中で転落などの事故にあったという結論を出した。だがスネドン一家は最初の現地調査で9人もの目撃者を見つけ、彼が実は虎跳渓を完全に通過し、向こう側のシャングリラ県の町に着いて、食事や散髪までしていたことを確認した。
報告書はデービッド氏が雲南省に向かう直前、北京で友人の米国人留学生ジャスティン・リッチモンド氏と数日を過ごしたことを特筆していた。同氏は北朝鮮に 近い中国の延辺大学に留学し、脱北者の研究をし、中国当局から出国を求められていたという。2人は韓国でともに布教をした。この北京での再会が中国や北朝 鮮の当局にデービッド氏の脱北者へのかかわりを疑わせたかもしれない、というのだ。なにしろ雲南省のこうした地域は脱北の地下逃走路の最終部分としての実歴が長いのである。
報告書はデービッド氏が失踪直後の時期に長兄のマイケル氏とソウルで会う約束をし、航空券を所持していたことや、米 国の母校に復学して法科大学院に進む準備を済ませていたことを強調している。その上で雲南省での事故や地元警察の拘留はなかったことを示す証言や証拠を提示していた。
スネドン一家は地元ユタ州選出のマイク・リー上院議員やジェイソン・シェイフィッツ下院議員にデービッド氏の行方解明への協力を直接、求める手続きを始めた。また一家の周辺では同じモルモン教で共和党の大統領選候補ミット・ロムニー氏にも直訴すべきだという声もあるという。 そうなるとこの米国人留学生、北朝鮮拉致の「疑惑」は一気に拡大するだろう。
杜父魚文庫

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