9764 中国に頭のあがらないG8(3) 古森義久

G8は極端に中国に遠慮をしている。
その結果、今回のサミットの首脳宣言は、財政再建や経済復調に関してはなんとも曖昧な表現が多くなった。例えば「世界経済」の部分で、サミット参加 諸国が「経済の復調と強化、そして財政圧力への対処のために必要な措置を取る」とうたいながらも、その具体的な方途については「適正な措置は参加各国にとって同一ではない」と注釈をつけていた。要するに、あちらも、こちらもという「宣言」なのだ。
ギリシャがユーロ圏から離脱しようという動きを見せていることも、欧州全体の国際的な比重低下の方向を鮮明にする。世界の経済を論じる首脳会議ならば「G8」よりも「G20」がふさわしい、という印象が強められたことは否めない。
<<中国の知財権侵害や人権弾圧には一言も言及なし>>
G8サミットの衰えを見せつけた第3の要因は中国への遠慮だった。このサミットを「自由民主主義諸国の集まり」と規定すれば、当初の志の後退だとも言える。
今回の首脳宣言は「世界経済」に関する記述の主要部分で、知的所有権の保護の強化を訴えていた。知的所有権の侵害が経済の成長や雇用の拡大までを阻害すると指摘して、特許や商標の侵害への法的取り締まりの強化をも求めていた。
近年の世界で知的所有権の侵害、つまり偽造品、模造品の製造や流通の最大犯人は中国である。世界貿易機関(WTO)の再三の公式報告がその実態を指摘している。
だが、このサミット宣言の知的所有権侵害の指摘の中には、中国という文字はまったく出てこない。もちろん中国はすでに世界第2の経済大国であり、G20の有力メンバーである。だから名指しの非難はしないという外交配慮があっても当然かもしれない。
しかし同じ首脳宣言では「政治・安全保障問題」の項目で人権弾圧を正面から取り上げ、シリア、イラン、北朝鮮、リビア、ミャンマーなどの諸国の名を具体的に指摘して、非難を表明していた。中東や北アフリカの諸国の民主化促進の必要性をも強調していた。だが中国の人権弾圧には一言も言及がないのである。
米国ではちょうどこのサミット開催の時期、中国の盲目の人権活動家、陳光誠氏の苦境が大きな話題となっていた。議会の各種公聴会でも取り上げられ、陳氏一家への当局の迫害の数々が報告されていた。陳氏一家の米国への入国の動きも関心を集めていた。この関心は米国だけではなく全世界的だとも言える状況だった。
中国共産党独裁政権の人権弾圧は陳光誠氏だけに対する措置ではない。チベットやウイグルという少数民族の「浄化」なども、そのほんの一端だろう。(つづく)
 
杜父魚文庫

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