9801 書評・鳥居民『昭和二十年 さつま芋の恩恵』  宮崎正弘

困窮生活、日本の敗戦への誤断は誰が最終的に責任を負うのか。米国ではシナの工作が議会、ホワイトハウス、マスコミを壟断していた。
<<鳥居民『昭和二十年 さつま芋の恩恵』(草思社)>>
「鳥居節」という名調子は中国政治の闇の奥に独自の視点から挑み、闇に一条の光を当てて、その本質の一部をえぐり出す。
じつに快刀乱麻を断つような中国の分析は一定の旋律に沿っての名調子。ファンが多い。
薄煕来事件では「新四人組」を定義されて胡錦涛、習近平、温家宝、そして賀国強のそれぞれ派閥がまるで異なるにもかかわらず、共産党トップの意見が合致した。ゆえに薄は斬られたと説かれる。
理由は共産党の指導のコンセンサスに薄が正面から挑んで秩序をかき乱したからである。秋の党大会では江沢民を飾り物の「顧問」に祭り上げ、引退への花道を準備したとも説かれる。
こうしたユニークな分析の鳥居氏はライフワークとして『昭和二十年』を選ばれた。
このシリーズは第一部の十三巻目である。全十五巻になる予定。すでに三十年の歳月をかけて、昭和二十年の一月一日から、克明に刻一刻を縷々しるされるという歴史。この巻でようやく七月一日、二日の記録である。
知られざる歴史の断面は、その日、七月一日に高松宮邸ではさつま芋畑で草取り。南太平洋の島々でも飢えを満たすために薩摩いもを育てている。ソ連を介しての和平交渉は進まず、木戸幸一は保身のための暗躍を続けている。田中新一も策謀を続ける。
日本が敗戦へむかう一瞬一瞬、政治トップ、宮内庁と宮様がた、そして軍の中枢はいったい何を考えていたのか、外務省は和平工作をしていたのか、本気で。
陰謀と誤断と悪辣な外交工作が渦巻く舞台裏の動きを活写していく手法は、文章が生きているようで波瀾万丈。個人的には杉田一次、法眼晋作といった(面識があった人達でもあり)戦後日本の防衛、外交の一翼を担った人々の信念の形成が、こうした戦争の過程で凝縮されていったことを、今更ながら思った。
さて浩瀚な本書を評者(宮崎)は全体を通して読んでいるわけではないので、ここでは、本巻に登場するロビィ工作に関した記述を紹介しておきたい。なぜなら在京中国大使館の一等書記官が出頭要請に、さっと逃げ出した。個人的に活動資金を日本人から集めていたうえ、この男は松下政経塾にも籍を置いて、学者を装い、すっかり日本人を騙していた。
戦前、アメリカで日本の悪イメージを植え付ける工作にあたったのが、宋子文と胡適だった。
鳥居氏はこう書かれる。「胡適と宋子文は道義上の優越性は(日本より)自分たちの側にあるのだと信じ、その絶対的に有利な舞台で存分に活躍した。しかも宋は一介の役人に過ぎない野村や来栖と違って、自由に使うことのできる豊富な軍資金を持っていた。アメリカからの借款を自由に使うことが出来たのである。
宋はルーズベルトの顧問と政府閣僚を定期的に邸宅に招き、シナ料理をご馳走し、食後には必ずポーカーをやった。さらに胡適と宋子文はアメリカの最高裁から、上院、下院に友人を作り、たずねた州知事や市長に大歓迎される関係を築き、大學教授、新聞記者、国際問題を論じる評論家とはいつでも電話連絡をすることができ、重慶政府の主張を新聞やラジオで伝えさせていた」(155-158p)
かれらのロビィ工作はワシントンの秘密電報の中味さえ、たちどころに掌握できるほどの優位にいたが、それもこれもルーズベルト政権内部に救ったコミンテルン同調者と、デラノ家の利益買弁家でもあったハリー・ホプキンズの存在であった。ハリーは、ルーズベルトの右腕として、殆どの陰謀に荷担した。嗚呼、こんなおり日本では畑にさつま芋を育てて細々と食いつないでいた。
 読者の声 どくしゃのこえ READER‘S OPINIONS 読者之声 
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(読者の声1)一昨日、衛星放送で北欧(スエーデン?)映画を見ました。ストーリーは開拓時代の米国で鉄道敷設の労働力として多くの中国人が出稼ぎに渡米したが、奴隷のように酷使され、動物のように虐待されて迫害されて多くの中国人が死んで行った。
その犠牲者の子孫の一人が、先祖の遺言に基づいて虐待した現場監督(スエーデン人)の一族(米国在住とスエーデン在住の子孫の一族)を皆殺しにするところから始まる展開の映画で殺害されたスエーデンの一族の中で一人だけ難を免れた女性(判事)が、真相を究明しようとして中国まで乗り込んだが、到着した初日からハイテク技術を駆使した犯人側の厳しい監視と執拗なまでの尾行追跡を受け、スパイ映画さながらの展開で、絶体絶命の寸前に追い詰められ、主犯格の経営者と対峙し、殺害される寸前で反撃して経営者を殺害して一件落着となった。
昔の冒険漫画の様なお粗末な解説ですが、ストーリー展開を時代考証でみれば、年代が合わない荒っぽいものだが、米国のスパイ映画を上回る様なハイテク技術をふんだんに駆使して追跡する展開は、現在の中国の真の実態なのかと少々訝しく受け止めています。
しかし日本の実情と比較して、中国がこの映画で展開されている状況に近いのであれば、その進化の度合いに驚くばかりで、日本の”ガラパゴス化”は、現実味を帯びているのかと不安になる。
年初から展開されている中国共産党の政治劇、政治権力中枢のドロドロのせめぎ合い、(注 薄煕来失脚までの王立軍亡命未遂事件等の中国情報)に接していますと、中国の実態は平和ボケの日本人には魑魅魍魎の漫画映画の世界に映る。
本日の新聞報道でも、中国大使館付書記官がスパイ行為を繰り返していたという。当の書記官は、出頭要請を拒否し、いとも簡単に日本から出国したと報じられている。
これが逆のケース(駐・中国の日本大使館員)ならば、有無を言わせず逮捕されているだろう。これは、”日本はスパイ天国”を実証する典型的事例であるが、日本の公安当局は、尾行するだけの無能集団なのか?
日本のマスコミは、一週間前の出来事を報告するだけの校内新聞以下の存在なのか?(HD生)
(宮崎正弘のコメント)日本人から国家意識が希釈されて、要するに政治家、官僚、財界、マスコミはあげて戦後レジームを護るだけに汲汲としているのですね。マスコミは校内新聞以下という辛辣な指摘も、大筋では間違いではないでしょう。
(読者の声2)産経新聞のコラム(5月29日)ですが、次のようです。「短歌を詠み継ぐ人々 吉村 剛史(産経新聞台北支局長)」
「(引用開始) 台湾の日本語世代の歌人、呉建堂氏(故人)が創設した短歌会「台湾歌壇」の事務局長、三宅教子さんは、岡山県倉敷市の出身。細やかな気配りで知られる会のアイドル的存在だ。岡山大時代に縁を得た台湾の留学生と結婚。1男3女にめぐまれ、1977年に家族で来台した。
その三宅さんから、自費で編んだ初の歌集「光を恋ひて」をいただいた。異郷生活のとまどいや望郷の念、台湾への愛着が深まる様子がうかがえ、在留邦人の精神史の一例としても興味深い。三宅さんは、日本語世代の会員が年々減少する様子をみて、「最後の一人までお世話をしたい」と決意し、数年前から月例会の準備や歌集の編集を支えている。その思いは2年前に詠まれた次の歌からもうかがえる。
「亡き友らの歌読みをれば留めたき思ひ次第に膨らみてくる」大学での講演など、地道な活動が実を結び、一時は十数人だった月例会の参加者が、今や平均50人以上、会員数も100人以上に増えた。日台の若者の入会も相次ぎ、「先住民の若者からも佳作がよせられました」という三宅さんは、「今後は、次代への運営引き継ぎに取り組まなければ」と目を輝かせている」(引用止め)
と長々と引用しましたが、わたしも短歌をやっており、台湾にも何回か行きました。この三宅さんを先生はご存じでしょうか?(EY子、松戸)
(宮崎正弘のコメント)『台湾万葉集』で菊池寛賞をもらった呉建堂さんが創設した同好会組織ですが、もちろん小生も台北で何回か会合に出席しました。呉先生にも二回ほどお目にかかったことがあります。
日本語研鑽、日本文学に親しむ「友愛」グループがあります。俳句のグループもあります。
このことは十数年ほど前に『正論』に書いたのですが、いまも台湾では、拙文のコピィが回覧されているようです。「友愛」も主宰の陳絢燦氏らが引退され、次の世代が引き継ぎ盛会。短歌のほうも蔡昆燦さんが頑張っていますが、若い人たちの台頭が凄いと聞いております。
当該歌集も三宅さんから送っていただき、ひとつひとつの歌に感動しつつ、じっくりと読んでおります。
(読者の声3)前号で特許に関しても投稿がありました。ご指摘のとおり、米国や欧州はともかく、現在の中国では日本企業は特許戦争で敗北寸前の瀬戸際に追い込まれていると痛感しています。
商標を手当たり次第に盗用して商標出願する中国人が跋扈し、米国企業(アップル)でさえタジタジの状態である。
商標を盗用された日本企業は、企業進出を阻まれ、自社製品の輸出さえも阻止され、商権を脅かされている。これに対して日本企業が裁判に持ち込んでも敗訴するケースが多く、日本政府も日本企業も対抗する術がなく立ち往生しているのが実情であります。
中国側は、個人も企業も日本の特許関係の実情を把握し、固定観念の特許庁の隙間を突き手練手管で落ちこぼれた特許案件(出願を拒絶され、あるいは放置された出願案件)を探し出し、それを中国本国に持ち帰って特許出願すれば、国益重視の中国では確実に許可される。
その結果、日本企業は自社特許は取得できず、中国特許に脅かされる不利な状況に陥るケースもあると想定される。これは日本の特許制度が国益無視の鋳型にはめ込まれた歪な状態のまま、一向に改善されないからである。
私は特許庁に「特許制度を国益重視の方向に転換すべきである」と、再三意見を具申しているが、特許庁関係の当事者は、聞く耳を持たない嘆かわしい姿勢を続けているのが実情であります。
このままでは、日出ところの日本が日没するところの中国に、工業立国=技術立国としての日本の最後の砦を明け渡す日も近いだろう。日本の有識者の総意で、特許庁の石頭を解剖し粉砕していただきたいものである。(特許状況を憂慮する一読者)
(宮崎正弘のコメント)日本の特許法に「秘密条項」を設けるべしと四半世紀前から小生も訴えていますが、通産省傘下の特許庁は馬耳東風という状態ですし、特許戦争の先端にいる企業の特許部ですら、そういうパラダイム・シフトが出来ない、日本人全体の発想力の劣化ではないか、と思います。
(読者の声4)貴誌3663号でしたか、「保守陣営の中に小沢ファンが多い」という指摘がありました。その理由が何なのか教えていただけないでしょうか。
彼が国のことを思っていないのは、3.11以降、一度ぐらいしか国(岩手)に帰っていない事実からわかります。彼ほどの実力者<?>なら故郷の一大事に何があっても馳せ参じるでしょう。それが本当の地元日本の国会議員です。(TM生、大阪)
(宮崎正弘のコメント)伏線として小泉政権への失望があり、とくに竹中が採用されて、強引におこなわれた財政、金利ならびに郵政解体という経済政策の間違いから、小沢なら逆をやりそうという、まるで根拠のない期待が小沢支持へ過度に走らせているような気がしますね。
さらに政界でも自民党からはみ出した議員、元議員らが小沢に期待するのは、一種の意趣返し心理かと思います。
杜父魚文庫

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