9811 中国バブル経済が明らかに破綻し始めた  宮崎正弘

中国バブルがはじけた何よりも証拠は香港で顕著になった。有名ブランド品の売れ行きが激減、豪華不動産価格は30%台の値下がり。
香港は免税天国、消費のメルクマールであり、次の中国の消費動向が如実に現れる。じつに香港居住民の四倍、2800万人が毎年、中国大陸から香港へ旅行する(香港返還前まで香港旅行者の第一位は一貫して日本人だった)。
スノビズム丸出しの頃、日本人が一目さんに買ったのは、グッチの鞄、ダンヒルのライター、バリーの靴、セリーヌのスカーフ、ローレックス時計、ディオールの化粧品等々。
最高級ホテルはペニンシュラだが、このホテル内にブランド品ショップが集中していたため、ツアー客は「ペニンシュラで買い物時間」が謳われたツアーに参加するという時代もあった。
発狂に近い欧米ブランド品への信仰は、いまも日本国内で燻っており、銀座はティファニーもルイビュトンも旗艦店をおくが、主なツアー客は中国からの団体様に様変わりしている。日本人はむしろ「ブランドオフ」(中古、質流れ)へ。
ブランド品を買い漁る中国人のエネルギーは凄まじい。あの発熱減少は発狂したのか、と思えるほどである。
香港は九龍半島の突端がチムチャチョイ地区、そこを南北に貫くネイザン通りは香港の銀座、日本語が通じるほどの盛況で、日本食レストランも多く、駐在する日本人も一万人以上がいた。あの頃は、ほぼすべてのマスコミは香港に支局を置いていた。
有名ブランドのみかわ、キアノン、リコーのカメラを買って、日本に持ち帰って売っても利幅が取れた。デジタル製品も日本製が溢れ、世界から買い物客が香港に押し寄せた。免税天国の威力である。
がらりと香港が変貌したのは返還後、数年をまって「一国両制度」の確定が予測され、社会に安定感がでて、カナダや豪へ逃げていた華僑がごっそりと舞い戻り、さらに2000年代にはいって、中国の経済が沸騰して、中国から買い物客が来るようになってからだ。
あの貧乏な中国から、香港に買い物に夥しい旅客がやって来る時代がくるとは、誰も予想していなかった。
▼人民元が香港ドルより強くなって、消費傾向が様変わり
人民元の札束をもって有名ブランドは手当たり次第、絵画・骨董からワインのオークションにも参加して最高額で競り落とすのは、たいがいが大陸の中国人となった。
ルィビュトンの旗艦店は番号札を発行して歩道に買い物客を待たせるという措置を取らざるを得ないほどの異常事態がつづいた。
80年代から90年代にかけてパリのルイビュトンでは日本人を店外にまたせ、順番を待って入店した客にひとり三品以内という制限をつけていましたっけ。
こうなると利にさとい香港の両替商は機敏に動く。町の両替はインド系が多い。2005年が境になったと思う。
人民元が香港ドルよりも強くなったのだ。しかも中国の銀行が発行したクレジットカードが使えるようになり、さらには銀連カードが闊歩する。
中国人の嗜好は時計ならジャガール・クルトかIWC,買い物の平均が70万円台。バーバリのコート、マンションは豪華広大プール付きが好まれて、次に金ショップに群がった。
以前、小欄でも前に書いたが、「周大福」という金ショップには金塊、金棒、金時計、金宝飾品買いに長い長い列が出来ていた。
突然、こうした消費動向が激減方向へ向いた。ウォールストリートジャーナル(5月31日、アジア版)に拠れば、金、宝石の売り上げが鈍り、2010年に47%増が、11年に19%増加とスローなペースになる。
2012年は旧正月までが増加傾向だったが、黄金週間は「なにかの陰謀でもあったかのように」、ピタリと客足が遠のきはじめ、減少傾向にあるという。同、ティファニーもルイビュトンも30%台の増加ぶりが、1l年には10%台に落ち込んだ。ということは2012年は前年比マイナスとなるのが明らかである。
時計の販売は15%減少、周大福など金ショップは18-19%激減、不動産もワインも骨董も30%値下がりが普通の状況がでている。中国国内のバブル経済が明らかに破綻し始めた影響である。
もっとも中国共産党トップは経済の急激な減速を知覚しており、いったん中断した各地のハイウェイ、地下鉄、空港建設を再開し、新幹線プロジェクトも再開する。
「政府は景気刺激策に転換したとは公表していないが、しずかに財政出動を展開している。ちかく公表されるプロジェクト計画の全容は3500億元(5兆円弱)に達するだろう」(ヘラルドトリビューン、5月31日)。
杜父魚文庫

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