香港四大財閥の世襲問題とハーバード・ビジネス・スクール流儀と。中華伝統の経営から、二代目らは米国流マネジメントに切り替えて。
「世襲」は北朝鮮だけの問題ではない。日本でも世襲企業がいくぶん残るが、トヨタ、サントリーなどは例外的になって、ホンダも日産も創業者とは無縁のCEOを社内外から選び、かれらエリート集団が大企業を率いる。近代資本主義の源流とされる福沢諭吉は世襲制度を憎んだ。
三菱、日立、東芝の重電御三家は、とうの昔から世襲後継を廃止してきた。
香港の四大財閥は新鴻基(サンホンカイ)、恒基地産(ヘンダーソンランド)、新世界集団(ニューワールド、「周大福」は系列)、そして長江実業(「和記黄浦」は系列)。
なかでも最大財閥の長江実業と和記黄浦を率いる李嘉誠は83歳、いよいよ後継指名を迎え、世襲を是認した。
5月25日に長男の李沢炬(ビクター)を後継経営者に指名したのだ。長男のビクターは父親の補佐役としてすでに長江実業と和記黄浦(ハッチソンワンポア)の総経理であり、いきなりの後継指名でもないから香港財界は驚かなかった。
両社の資産は香港株式市場の時価総額の33%をしめるほどの巨人、李一族の資産は280億ドルで、おそらくアジア第一位といわれている。
李嘉誠は広東省の東のはずれ、潮州の出身。潮市内で驚いたのは、どの写真館も、李嘉誠の写真を飾ってあったことだ。出身地では英雄扱いである。
李嘉誠の次男、李沢楷(リチャード)はスタンフォード大学留学後、カナダの投資ファンドで働いた経験があり、香港に帰ってから既に通信の中核企業「PCCW」を起ち上げて十年、若き日に設立したスターテレビをニューズコープに売却して大きな利ざや。
リチャードはこうした多角的経営にも乗りだし、通信事業では香港最大のケーブル&ワイヤー社を買収した。日本にも進出し八重洲にPWWCビルを建てた(その後、売却)。
いまや弟のほうも、それなりの大手にのし上がっている。個人資産だけで12億米ドルとも言われる。
ところが香港では政治的環境の変化があり、李嘉誠が支援した行政長官候補の唐英年が落選、胡錦涛派の梁震英が大差で就任した。
投票日直前に共青団が異様な梃子入れをおこない、香港の利権を江沢民派から奪ったとも解釈できる行動だった。
その途端、サンホンカイのふたりのCEOが「収賄」で御用となって、じつは香港実業世界は大揺れに揺れているのである。
▼創業一家はホールディング企業か株主として経営から分離させる米国式
マッキンゼー報告に拠れば、アジア的経営は世襲に傾きやすいが、欧米とりわけ米国では創業者一族はホールディング企業か株主として残っても、経営は第三者にまかせるケースが普遍的である。ロックフェラー家もモルガン家も、最近ではブッシュ家も。
したがって批評家は、「香港では二代目の多くがハーバード大学に留学し、ビジネススクールで欧米型経営を学んで帰国した。ということは、今後の経営の基本姿勢も必然的に変わる。
「二代目から三代目となると、文化的にも西側の影響が強く、東洋的感性は突出せず、世襲が制度化することには抵抗があるだろう」(同マッキンゼー報告)。
もっとも香港は英国の植民地として金融でさかえた特殊地域である、中華文化全体を体現するものでもなく、根無し草という意味では、外国の流儀の影響を受けやすい土壌があった。
さて金ショップ、宝飾品小売り大手「周大福」チェーンをIPO(新規株式公開)して20億米ドルをあつめ、話題を呼んだ新世界発展集団では、創業者の鄭家丹(86歳、資産100億米ドル)が引退を早々と宣言し、息子の鄭家純(65歳)に権限を移譲した。
筆者は二十年ほど前に、この鄭にインタビューしたことがある。ところが、香港実業界が注目するのは、三代目のほうなのである。
鄭家丹の孫で、弱冠32歳の鄭志剛が「周大福」の中国本土への大々的進出の責任者である。かれが三年前に結婚式をあげたときには、政財官トップが勢揃いしたほどの豪華パーティをやらかして、話題となった。
鄭志剛のクリスチャンネームがアドリアン。ハーバード大学留学組で、米国式経営を取り入れることに躊躇いもなく、2012年五月にも傘下のグランド・ハイヤット・ホテルで大宴会を開催したおりには大陸から関係者、投資家を招待して香港マスコミの話題となった。
つまり香港の伝統的な資金あつめを超えて、米国式のIPOを展開し、また強気の買収作戦やマネジメント方法も、米国仕込みなのだ。四大財閥のなかで、新世界集団が、もっとも早く変身している。
▼ハンチントンのパラドックス
もう一つ、李兆基が牽引する恒基地産は着実に商圏を広げた。資産が150億ドル、北京駅前の恒基複合ビルに知人がいるので、評判を聞いたことがある。というのも筆者は二十年前に、この李兆基にも一時間ほど独占インタビューしたことがあり、そのとき「日本に進出する気があるか」と聞くと「あんなに税金のたかい国でビジネスが成り立つのか?」と逆に聞かれた。
ところが、その後、東京株式市場に「ヘンダーソンランド」として上場した。返還直後、二年ほど不況に直面したことがあるが、香港不動産市場活性化で再浮上している。
李兆基自身は広東省順徳出身で、同市は広州市の南、カンフーで一世を風靡したブルー・スリーの出身地でもある。この企業からはまだ後継問題が聞こえてこない。
かくして「ハンチントンのパラドックス」は言う。
「近代化は近代以降の歴史発展の趨勢であり、世界的な歴史プロセスである。近代性は安定を育むが、近代化のプロセスそれ自体が動乱を引き起こす。秩序混乱の原因は近代性の欠乏ではなく、近代性の実現に向けた努力のなかにある。そして混乱、動揺、波乱が生じた場合、それは彼らが貧しいからではなく、豊かになりたいからなのだ」
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読者の声 どくしゃのこえ READER‘S OPINIONS 読者之声
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(読者の声)産経新聞の古森義久さんのブログが『ニューヨーク・タイムズに反日デマ広告 』と題して更新されていました。在米韓国系の活動家が掲載したようです!日本政府はどう対応するのでしょうか?
「(引用)5月29日付のニューヨーク・タイムズの15ページに全面の意見広告が掲載されました。日本を「慰安婦問題」で不当に攻撃し、誹謗するデマ広告です。
あえてデマと書くのは、内容が捏造、歪曲、悪意に満ちているからです。広告を出したのは韓国の新聞報道などによると、在米韓国系の活動家たちのようです。
そしてこの意見広告は次のような記述を掲げています。 原文はもちろん英語ですが、私がざっと訳してみました。
「1971年にはドイツの首相ウィリー・ブラントがポーランドのワルシャワの戦争犠牲者記念碑の前にひざまずき、許しを求めた。この行動は世界との和解へのドイツの誠実な訴えの象徴となり、世界平和に大きく貢献した。
だが対照的に、日本政府は、第二次世界大戦中に日本軍兵士のための性的奴隷として行動することを強制された慰安婦たちに適切な謝罪をせず、適切な賠償もしていない。日本政府はドイツの行動を学ぶ必要がある。
日本政府は慰安婦たちへの心からの謝罪を一日も早く表明しなければならない。そうしてみて初めて日本政府は北東アジアの平和に寄与することができるのだ」「あなたは覚えていますか?」(引用止め)
以上が韓国系の宣伝広告ですが、ごく簡単に考えても、この記述には以下の重大な間違いがあります。
(1)ナチス・ドイツがユダヤ民族600万人を虐殺したことを日本の「慰安婦」問題と同等にみなしている。
(2)日本の政府や軍が「慰安婦」を強制的に連行したり、活動をさせたことはないとされるのに、「強制」と断定している。
(3)個人の任意による商業的活動での売春活動の従事者すべてを「セックス・スレイブ」(性的奴隷)という実態とは異なる表現で断じている。
(4)「慰安婦」となった人たちの不幸への謝罪は日本政府は「河野談話」などとして表明したのに、日本政府は謝罪していないと断じる(「適切」というひっかけ言葉に逃げる狡猾な手法)
(5)戦争関連のこの種の賠償は政府間では日韓国交樹立の際に済んでおり、さらに「慰安婦問題」ではその後の政府が支援しての民間資金で供しているのに、なにも賠償がないと断じる(ここでも「適切」という主観的な表現を巧妙に使っている)と、こんな調子です。
標的とされた「日本政府」がどう対応するか。注視したいところです。(YY生)
(宮崎正弘のコメント)日本の保守団体がNYタイムズに広告を打とうとすると、イチャモンがつきますし、殆ど広告が打てない。
ところが河村市長が南京大虐殺を否定すると、地元の中日新聞は「河村発言を支持する」意見広告の掲載を拒否しました。いやはや。小生とて編著『シナ人とは何か』の広告に関して言えば、産経新聞以外、全部広告掲載が拒否されました。
「シナ人」がタブーの由です。以前から指摘してきましたすが、アイリス・チャンの嘘の集大成『レイプオブ南京』は古典文庫が主の「ペンギン・ブックス」に入っており、しかもNYタイムズ、ヘラルドトリビューン、そしてフィナンシャルタイムズには大きな広告が間歇的にでます。
その資金は? つまり欧米が中国と組んでの謀略は依然として続いており、欧米は自らの侵略をごまかし、とくにアメリカは原爆と無差別空爆への批判の矛先を躱す政治目的が重なって、中国の展開している日本批判の謀略的政治宣伝に荷担するのです。
杜父魚文庫
9813 香港の四大財閥と世襲問題 宮崎正弘

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