さて、民主党の輿石東幹事長についてです。私はこの人の長い議員生活を通じて果たして何か実績があるのかとまず素朴な疑問を感じるのですが、それはともかく輿石氏は昨日、野田佳彦首相に呼ばれて何事か協議し、あす首相と小沢一郎元代表が再会談する運びとなりました。また、首相は輿石氏に、輿石氏が反対してきた内閣改造を来週にも行うことを伝えたとされます。
まあ、ずっと国会・党運営の実権を輿石氏に握られ、いいように振り回されてきた野田首相が、やっとリーダーシップを執ろうとしているように見えます。まだはっきりしませんが、首相の権力はその気になればとても強いので、首相が本当に覚悟を決めたのなら、輿石氏を抑え込んでの小沢切りもあるのでしょう。首相としても、前任者2人と並んで何もできなかった3バカトリオと呼ばれることは何としても避けたいはずですし。
実際、私自身の取材でも、野田首相がこれまで会った相手に「民主党が壊れても消費税増税法案は通す」という趣旨のことを言っているのは事実のようです。私自身はいま消費税を無理して上げることに合理性・必要性が見いだせないのですが、とにかく首相がそう思い定め、政権の最優先事項にしているのは事実ですね。
繰り返しますが、私はいま消費税増税をしたいのなら、衆院解散・総選挙で国民の信を問うてからそうすべきだと考えています。従って、マニフェストにない増税に突き進む野田首相も、増税は民主党政権のうちにやらせておこうという思惑が見え見えの自民党にも反対です。勘違いと思い上がりも甚だしいと思っています。
ではありますが、党のナンバー2でありながら自分たちが選んだ党代表である野田首相の指示・意向に従おうとしない輿石氏の姿にはずっと違和感を覚えていました。輿石氏はどうも、党内の「声なき声」「本音」を代弁していると気取っているようでしたが、この人らしい「党あって国なし」の労組議員らしい姿勢を表しているようにも見てきました。
もともと輿石氏には自身の政策らしい政策はなく、ただ組織の中をうまく泳ぎ渡ってここまで上り詰めた人なので、根っこは日教組にあるにしろ、実は消費税にしろTPPにしろ集団的自衛権にしろ、特に個人的な見解も意見もないと見ています。
野田首相も、そういう輿石氏のよく言えば融通無碍、ありていにいえば原則のなさを買って「自分の思う通り従ってもらおう」と幹事長に抜擢したのでしょう。首相は「あなたしかいません」と言って輿石氏を口説いたと聞きます。私はこの人事自体が噴飯ものだと思いますが、輿石氏が「鳥なき里のコウモリ」として偉そうに振る舞えるほど、民主党には(まあ他党もそうですが)人材がいないゆえのチョイスだったとも言えますね。
で、その輿石氏について今、新聞はどう描いているか。ここ2週間ほどの在京各紙から、輿石氏のあり方、手法について書かれている部分を以下に抜き書きしてみました。
5月18日付毎日「一体改革か元代表か 輿石幹事長 見えぬ真意」……《民主党の輿石東幹事長が法案成立に必要な自民党の協力取りつけに動いた形跡は見えない》《輿石氏の言動は複雑だ。周辺に「法案は継続でいい」「会期末で国会は閉じる」と語るなど、党分裂回避を最優先する発言もしている》
5月20日付朝日「野田首相の怖さ 消費増税の鬼になれるか」……《民主党の輿石東幹事長は首相の意向など「どこ吹く風」だ。時には、消費増税法案の今国会成立にこだわらない姿勢を見せる。野田氏は法案成立と引き換えに衆院解散も辞さない構えなのに対して、輿石氏は「解散は来年夏だ」と繰り返す》
5月22日付朝日「増税 首相危うい二股 双方から不信 袋小路」……《民主党幹部の一人は首相に「2閣僚を辞めさせた方がいい」と勧めたが、首相は「そうしないといけないと思っている。でも輿石さんが固いんだ」と苦笑したという》《「党内融和」を最優先する輿石氏は、谷垣氏との極秘会談など首相が自民党に接近するたびに反発。一方、小沢元代表の党員資格停止処分の解除を決めるなど党運営の主導権も握る》
5月23日付毎日「会期延長幅駆け引き 増税法案 見えぬ妥協点」……《輿石氏が念頭に置くのは、秋ないし年末まで大幅延長し、法案採決は9月の民主党代表選後に先送りする案。「もう1回、消費税を争点に代表戦をすれば党全体が協力できる」(輿石氏に近い党幹部)という思惑だ》
5月24日付産経「首相『笛吹けど』『踊らぬ』輿石氏 選挙制度改革 与野党幹事長会談は物別れ」……《輿石氏の対応は無責任極まりないものだった。社民党の重野安正幹事長が「この会をまとめる案を出してほしい」と求めても輿石氏は無反応》《衆院解散の環境整備を進めることは認めない-。これこそが輿石氏の本音であり会談後、記者団から「輿石案は出さないのか」と問われるとこう開き直った。「なぜ提示しなけりゃならんのですか。そんな案ありませんよ」》
5月26日付産経「首相 小沢氏 輿石氏 北へ南へすれ違い」……《24日の政府・民主党三役会議では産経新聞24日付朝刊の記事「首相『笛吹けど』『踊らぬ』輿石氏」が話題となった。輿石氏が「踊りましょうか?」と皮肉ると首相は「私は笛を吹きましょうか?」。政権は完全に弛緩している》
5月30日付読売「『えせんぼう』のしつけ役」……《輿石氏は首相と小沢氏の双方に譲歩を求めるつもりのようだが、おかしくはないか。消費増税は、民主党の方針だ。自ら「一兵卒」と称する小沢氏がそれに従うのが、政党政治のイロハだろう。融通の利かない「原理主義」もよくないが、組織融和を重視するあまりの「無原則」はもっと困る》
5月31日付毎日「消費増税 会談物別れに 元代表 必死の『時間稼ぎ』」……《元代表が頼りにするのが党内融和を優先する輿石氏だ。首相と元代表の決裂を「うやむや」にしようとする輿石氏の路線は、時間稼ぎをしたい元代表の最大の援軍になる》
6月1日付朝日「消費増税 採決への関門」……《首相が国会答弁で増税法案採決前の結論を確約した衆院の定数削減も足踏みが続く。民主党はマニフェストに掲げた比例80削減に固執。首相は輿石氏に野党との早期合意を促すが、輿石氏の動きは鈍い》《閣僚交代に踏み切れないのは、輿石氏が強く反対しているからだ。輿石氏は31日の会見で「内閣改造も問責2閣僚交代も考えていない」と改めて否定。首相周辺には「最後は輿石切りだ」と党執行部を刷新して自民党との協力に舵を切る考えも出る》
6月1日付読売「首相 6月採決へ攻勢 輿石氏 先送り模索も」……《「首相はこの法案の成立に政治生命をかけている。別に6月21日までの今国会での成立に政治生命をかけているわけではない」 輿石氏は最近、周囲にこう語っているという。法案採決と会期延長を巡る首相と輿石氏の綱引きは続いている》
6月1日付日経「急ぐ首相 渋る輿石氏 消費増税 修正協議へ」……《今国会での(公務員制度改革関連法案の)成立は極めて困難だ。残り会期が20日余りとなる中、それでも民主党が法案を審議入りさせるのは、日教組出身の輿石氏が連合に配慮する姿勢を示すためとの見方が専らだ》《党内では「輿石氏は組織を重視する人だから最後は首相に従う」との見方もあるが、輿石氏は周囲に「俺を切りたければ切ればいい」と意に介さない》
6月2日付産経「強攻策の輿石氏 問われる本気度」……《輿石氏はこれまで自民党が修正協議の条件にしている衆院採決の日程提示を拒否し、2閣僚の交代にも抵抗するなど強硬路線をとってきた。首相の指示を受け、それまでのサボタージュから軟化するのか。輿石氏の本気度が問われる》
……輿石氏が今回、野田首相に従えば、それは必然的に小沢氏とは疎遠になることを意味しますね。輿石氏を参院のまとめ役として現在の地位まで引き上げたのは小沢氏ですし、輿石氏は小沢代表・幹事長時代に党の機密費と呼ばれる組織対策費もたくさん受け取っているし、輿石氏自身、これまで相当悩んでいたのではないかとも思います。
そしておそらく、輿石氏は今、おそらく「なるようにしかならん」と先のことは何も考えていないのではないかと推測します。5年半ほど前の話ですが、安倍内閣で教育基本法改正案の審議が大詰めにさしかかったころ、これに反対する輿石氏は民主党の会合でこうあいさつしました。
「われわれには知恵も対策もないが、頑張ろう!」
たぶん、今もこんな心境ではないかと。いたずらに齢は重ねていますが、老練というのにも老獪というのにもほど遠い輿石氏のことだから、何とか今の地位や権力に近いものが確保できれば何でもいいやと思っていることでしょう。
輿石氏のことだとつい、だらだらと書いてしまいますが、あと、昨日の夕刊フジに、輿石氏の文部科学相への横滑り説が載っていましたが、もし野田首相がそんな人事を考えているとしたら、私は正気を疑います。まさか三代続けてアレだとか、そんなことはないと信じたい今日この頃であります。
杜父魚文庫
9825 民主・輿石幹事長についてアレコレだらだらと書いてみる 阿比留瑠比

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