9835 菅前首相の東電本店での指さし確認行為について   阿比留瑠比

さて、本日は野田佳彦首相が内閣改造を行います。ですが、それについては紙面の方でさんざんあれこれ分析したり、論評したりするのでしょうから今はあえて触れません。このブログでは、本日も菅直人前首相の原発事故対応関連の話を書こうと思います。
当時、国のトップであり、災害対策本部の責任者であったこの人が事故に際し、何を言って何をしたかは、まだ十分に明らかにされたとは言えないからです。国家的危機の際にリーダーがどのように振る舞い、それがどんな結果を及ぼしたかは、後世への戒めとするためもっと真剣に検証されていい問題だと考えています。
特に菅氏が3月15日未明に東電本店に乗り込み、オペレーションルームで怒鳴り散らした件に関しては、その場に200人以上の人がいたにもかかわらず、いろいろと食い違いが見られます。また、その模様はビデオに録画されていたにもかかわらず、国会事故調に提出されたのは映像だけで、音声は消されているという不可解な問題もあります。
これについて菅氏は5月28日の国会事故調参考人聴取で、白々しくこのように述べたのは以前のエントリで紹介した通りです。
「私の気持ちで申し上げると、叱責という気持ちは全くありません。何か、よく怒鳴ったと言われるんですが、まあ、私の夫婦げんかよりは小さな声でしゃべったつもりであります」
……「怒鳴ったと言われる」などと明々白々な事実からも逃げ、さらに不謹慎なジョークで場を凍り付かせたのも菅氏らしいところです。菅氏は録音がもしあるならどうぞ出してくれ、という趣旨のことも述べました。これに対し、国会事故調の黒川清委員長はこう疑問を示しました。
「不思議なことに、菅総理は『あれはもし聞けるもんだったら聞いてくれ』と言うことだが、東電はあそこのところだけが音が出ないようになっているんですね。極めて不思議だと私どもも思っておりますので、これを何とかしたいと。そのときにおそらく菅総理の気持ちも伝わると思っております。是非それにもご協力を願いたいと思っておりますが、そういうことは極めて不可解だなと思っております」
……「そのときに菅総理の気持ちも伝わる」というのは皮肉かな、とも感じました。ともあれ、実際の菅氏の言動がどうだったかについては、各種報道が一致している部分もあれば、そうではないところもあります。菅氏がマイクを握って話した部分や大声で怒鳴った箇所は、部屋の外にいた記者団にも聞こえたのですが、興奮すると滑舌が悪いどころか何語か分からない言葉を操る菅氏のことですから、聞いた当事者の証言もちょっと食い違います。
例えば、今年3月19日付の業界紙、電気新聞はこう報じています。
《官邸側の意向でテレビ会議システムの音声を一部消した可能性があることが、関係者の証言で明らかになった。菅氏は東電が福島第一原子力発電所から全面撤退しようとしていると思いこんでおり、異常な興奮状態にあった。そのため菅氏の同行者が、そのまま発言を記録されることを懸念した》
《菅氏は居並ぶ東電幹部に対して、『逃げようとしたのはおまえか。おまえか』と一人一人指を差していったという》
……この「官邸側の意向」に関しては、私も関係者に確かめましたが、明確なことは分かりませんでした。私の取材相手の回答は「100%は否定しないけれど、少なくとも私は知らない。ちょっと考えにくい」というものでした。後段の指さしの部分の関連では、週刊新潮の最新号の記事「『国会事故調』追及が甘すぎた 『菅』『枝野』『海江田』自己弁護の嘘ばかり」には菅氏のこんなセリフが載っていました。
「原子炉のことを本当に分かっているのは誰だ。責任者は?(当時の武藤副社長が『私です』と答えると)何でこんなことになるんだ。本当に分かっているのか。(社員の顔を見るごとに)お前は何ができる。お前は何ができるんだ!」
そして、5月29日付産経新聞には、社会部出稿の原稿で「『現場は命懸け、あまりに失礼』 なぜあんな嘘を…東電関係者ら憤り」という記事がありました。ここには東電幹部の話として、菅氏の様子がこう描かれています。
《菅氏は血相を変えて本店2階の緊急時対策本部に現れると、周りにいた東電社員に対し「お前は技術屋か!」「説明するのはお前か!」と手当たり次第に迫った》《「(菅氏は)なぜあんな嘘をつくのか。あの時は誰が見ても冷静さを欠いていた」》
……まあ、いずれにしろ、この狂気じみた菅氏の振る舞いは、モニター画面を通じて福島第1原発の現場も見ていたわけです。さぞや士気が削がれたことは想像に難くありませんね。また、こうした狂態が本当に「夫婦げんかより小さな声」だったとしたら、あの2人は日ごろ、どんなけんかをしているのか。これは想像したくありません。
それにしても、この前任者にまで「ペテン師」と呼ばれた男の見え見えの嘘や自己正当化・美化の言葉を、いまだにそのまま事実であるかのように受け止め、信じようとする人たちがいかに多いことか。とにかく、東電は早く音声つきの映像を一般公開して事実を白日の下にさらすべきです。せっかく当人も出していいと言っているだし。
仮に実際に音声に削除してしまったたのだとしても、予備だか、個人的録音だとかありそうなものです。本当は菅氏が怒鳴り散らすそんな映像や音声は聞きたくないのですが、事実は知りたいと思っています。国会事故調は8日に東電の清水前社長を聴取するそうですから、その場ででも出してほしいですね。
杜父魚文庫

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