天津市書記に再任された張高麗に政治局常任委員会入りの声あり。この実力派は福建生まれ。台湾ビジネスマンとのコネクションが深い。
人民日報(5月27日)は天津市共産党委員会が党委書記に張高麗を再任したと報じた。張高麗は高齢(66歳)だが、一期だけの可能性で政治局常任委員会入りが予測されるようになった。
天津は周恩来が学んだ南開大学が有名だが、同市内には周恩来記念館もある。天津外国語学院には日本人留学生が目立つ。かつては上海とならぶ金融センターでもあった。
日本と親しい政治家には李瑞環(大工あがりで、第十六回大会まで政治局員)がいた。温家宝首相も天津閥に属する。(詳しくは拙著『出身地でわかる中国人』、PHP新書を参照)。
天津は地政学的にも北京の隣の貿易港として、東京における横浜の関係に似ている。つまり、この天津の塘古(日清戦争時代の主要港)から東を埋め立てて造成した海浜工業特区には日本企業がどっと進出し、その後、台湾企業、韓国企業もでたため大工業区に躍進した。
トヨタも、この地に進出した。北京―天津間の新幹線は一日六往復だけ、この塘古にも乗り入れている。北京の政権トップの権力闘争の文脈でいうと、天津をおさえるということは利権争奪の意味からも重要である。
張高麗は天津に赴任する前まで広東省副省長、次いで深セン経済特別市と山東省党委書記を歴任し、07年3月から天津市トップに就いた。江沢民派。
注目するべきポイントのひとつは張の出身地。かれは福建省普江が故郷、厦門大学経済学部卒。普江、石獅、泉州、厦門一帯の対岸は台湾。張高麗は台湾語(ビン南語)に堪能なうえ、台湾ビジネスマンとの「友好」で知られる。「台商」というのは、台湾企業のことで、福建省、広東省に夥しく進出している。
▼台湾ビジネスマンとのコネクションが強いという矛盾
中国全土に6万社もの台湾企業が進出しており、駐在している台湾人は百万人もいる。最大の在中国台湾企業が富士康で、大陸内だけで54万人の雇用を誇る。シャープの堺工場に出資した郭台銘(富士康の社長)は台湾人だが、家系は山西省。つまり、外省人ゆえに大陸で大胆な展開にも、肝が据わっている。
さて天津特別市の党書記に再任された張高麗は、天津で「天津台湾名品博覧会」を開催するほど台湾とのビジネス発展には力を入れており、中国と台湾のFTA推進派。台湾にとっては、張が政治局常任委員会入りすると、台湾へのビジネス頻度はまだ増えると歓迎風だ。
北京政府にとっても、いまや台湾企業を正面から敵視するわけにも行かず、政治家のなかでは台商とのコネが深い人も目立つようになった。わけても、この張高麗と次期総書記になる習近平は台湾に理解が深い。
習近平とて合計十数年が福建省勤務である(厦門市副市長、福州市書記から福建省省長をへて浙江省省長に転出し、上海市書記。そして政治局常務委員へいきなりジャンプ)
しかも張高麗の故郷=は福建省南部の普江。思い出されたい。一昨年九月、尖閣諸島沖合で海保の巡視船に体当たりした、あの暴力船長らが船団を組んで出航した漁村に近い。
筆者も普江から石獅へ入ってタクシーを雇い、暴力船長の漁村(深炉港)へ行ったことがあるが、この辺りは台湾企業の投資が顕著で、とくに繊維、紡績、アパレル工場が林立している。
北上すればマルコポーロが来たという伝説も残る泉州市。張高麗の政治局常任委員会入りの声は在米華僑筋の情報であるが・・・。
杜父魚文庫
9837 天津閥の張高麗が政治局常任委員会入り? 宮崎正弘

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