あの強硬発言「尖閣諸島に中国軍の軍事施設を建設せよ」の羅援将軍。今度は米国の「シャングリラ対話」に正面から挑戦的強硬発言を繰り出した。
米軍の艦艇の60%は、以後アジアに展開されることになった。対中東から対中シフトである。イラク、アフガンからも撤兵も今後、早く進む。
パネッタ国防長官はインドからシンガポール、ベトナムを歴訪し、「シャングリラ対話」と称する一連の対中軍事対応を関係国と討議した。「大きな成果があった」と米国メディアは書いた。
一方、中国は「なにゆえに米国はこれほど中国に敵対するのか」と言い出した。真っ正面からの米国批判である。
タカ派軍人のなかで劉亜州(空軍中将、軍学校政治委員)、熊光楷(引退組、対日工作に辣腕)、朱成虎(先制核攻撃論が有名)が後方に遠ざかったが、ニュー・フェイスは羅援(少将)である。
この羅援はかつても「日本が東シナ海の資源を確保すれば資源小国が資源大国となるではないか」とあからさまな対日侮辱発言を繰り返し、12年3月21日には「尖閣諸島に中国軍を派遣し、あそこに中国軍の施設を作れ」と放埒な発言を展開した。かなりの反日派軍人として知られる。
羅援の対米反論は次の要旨である。
「過去十三回の米国ペンタゴン報告『中国の軍事力』は中国の防衛力を、まちがった方向に評価しているが、アジア太平洋における米軍の配置は十分すぎるほどであり、これ以上、米軍が軍事力を高めるのは対中対話という流れに逆行している」と嘯く。
羅援の主張するデータは恣意的数字だが、こう続けるのである。「米国は世界一の軍事費を誇り、表向き6870億ドルというが、軍人恩給などをふくめると8360億ドルとなり世界最大、装備は世界最高である。中国軍は2011年度の国防予算は930億ドルにすぎず、GDP比でいえば中国は1・5%、対して米国は4・8%である」(中国は公表軍事費の三倍が実態というのが世界の常識)。
▼取り残された焦燥感が逆バネの強硬発言を産む?
羅援少将はさらに続けて言う。「すでに太平洋における米軍の存在は突出していて、駐屯兵力135300人、戦闘機618機、艦艇80隻。比較して在欧米軍は駐屯兵力が85700人、戦闘機290機、艦艇20隻でしかなく、この対比をもってしても中国を仮想敵国と位置つけているではないか」
「そのうえに米国は最新鋭ジェット戦闘機、ステルス機の開発に余念がなく、世界最大の軍事大国であることに疑念の余地がない。第一列島線とかの命名は、その先は禁止区という意味である(そんなことを中国は言われる筋合いはないというニュアンス)」
このような強硬発言は軍内タカ派のガス抜き効果があるが、朱成虎以来の強硬派が登場したのである。
07年7月5日、中国外交部における記者会見で朱成虎は言い放った。「たとえ米国が500発のミサイルと飛ばして我が中国の西安から東を灰燼に帰そうとも、わが軍は西安以西に一億の民があって報復するだろう」。この朱は毛沢東の僚友だった朱徳将軍の息子、「核兵器の先制攻撃の辞さず」と強硬な発言で有名になった。
羅援は羅青長の長男である。羅青長は四川人、長征に参加した古参幹部で毛沢東、周恩来がゲリラ戦争時代に秘密工作に従事し、党中央調査部長(これが国家安全部の全身)、つまり軍特務のボスだった。羅青長は表向き全人代常任委員をつとめたが、台湾工作など秘密工作が多い大幹部のひとり、その長男であるからには劉源、劉亜州、朱成虎らと同じく太子党である。
杜父魚文庫
コメント