亡くなった朝日新聞の石川真澄さんが著した「データ 戦後政治史」(岩波新書 1984)は、いま読み返しても説得力がある。多くの政治記者が夜討ち朝駆けの取材に追われていた時に、石川氏は斜に構えて衆参両院選挙の基礎データを集めて分析するという途方もない作業に没頭していた。
仙台で一緒に駆けだし記者時代を過ごし、おでん屋で秋田銘酒の新政を飲みながら議論を交わした仲。九州工業大学という理工系大学の出身のくせに文章が滅法うまい。それが、ほぼ同時期に政治記者になった。「やはり一風変わっている」と感じたのは、政党取材はほどほどにして選挙が永田町にどう影響を与えるのか、その因果関係を解くことに熱をいれていた。
「政治は人間がなす技だから、コンピューターにはなじまない」というと「そうかな?」と首を傾げる。ある日「これを読んでよ」と渡されたのが「データ 戦後政治史」。
民意を示す目盛りには「絶対投票率」という新語を使った。投票行動を行った人々の政党に対する相対的な投票率に対して、棄権した人々を含めた中での割合を重視した。この延長線上には、死票が多く出る小選挙区制度には懐疑的な立場が生まれる。
常在戦場でほぼ二年に一回の選挙がある衆院選挙に私たちは重視する傾向があるが、石川氏は参院選挙にも分析の光を当てている。12年に一度巡ってくる「亥年」の参院選挙では、大量の棄権が生じるという「亥年現象」を言い当てたのは石川氏。過去のデータから、投票率が下がる亥年には、自民党の得票率が必ず下がるという結果が出ている。
来年夏には参院選挙がある。亥年選挙ではないが、この選挙で改選となる参院議員は2007年の亥年選挙で当選してきている。
安倍内閣で実施された第21回参院選挙は平成19年7月29日に行われた。郵政造反組復党問題や年金問題、相次ぐ閣僚の不祥事等が重なって、この選挙で自民党は37議席と惨敗した。小沢一郎代表が率いた民主党は、追い風を受け60議席を獲得し、参議院で第一党となっている。この結果、非改選議席と合計すると野党は137議席となり、参議院における安定多数を確保して、ねじれ国会が現れている。
民主党に追い風が吹いたのは間違いないが、小沢代表は都市部はほとんど回らず、全国で29ある1人区の農村を中心に遊説を行っている。そして野党が23選挙区で勝ち、自民党の金城湯池だった農村部を制している。
三年後の第22回参院選挙では”脱小沢”の菅内閣の下で実施されたが、民主党は1人区で8勝21敗と惨敗、自民党は1人区で21勝8敗と大勝している。
こうみると、来年夏の参院選挙は改選数が多い民主党にとって楽な選挙ではない。輿石幹事長は衆参ダブル選挙を狙っているというが、下手をすると民主党政権の瓦解を招くことになりかねない。
杜父魚文庫
9868 亥年選挙の当選組が来夏の参院選へ 古沢襄

コメント