中国最大の機関投資家「中国人寿保険」の運用責任者は誰?弱冠三十一歳、金融知識が殆どない太子党。えっ。投資は大丈夫か?
中国共産党トップの一人、劉雲山はいたって評判が悪い。江沢民派であり、守旧派であり、しかも胡錦涛らの諸改革に反対の立場にいる。しかし彼は派閥バランスの関係から次期政治局常務委員になる可能性がある。高いとは言えないが、可能性がまったく消えていない。
その子、劉東飛は弱冠三十一歳。妻は賈麗青。賈春旺(前人民最高検察院検察長)の娘である。いってみれば太子党というハイソ同士の結婚だ。
深刻な問題は、そんな政略結婚の人脈図ではない。
劉東飛は現在、「中国人寿保険」の投資部門の責任者。同社は言うまでもなく中国最大の生命保険会社、毎月はいってくる保険料は膨大というより天文学的。嘗て日本生命や明治生命が保険料を慎重にプールして、預かった財産を懸命に運用し、その利益を保険プレミアアムとして保険加盟者に還元してきた。
安全確保のため、日本の生保は投資対象に株式もなく、為替差損の懼れがある外国債券もなく安全第一の国債、社債、そして不動産投資だった。
そのうえ日本の生保はビッグバン、金融規制緩和前までは株式上場は認められなり相互会社だったからこれほど「安全操業」の企業はなかった。
中国に生命保険なる概念が登場したのはつい十年ちょっと前、それまで医療保険、社会保険、福祉もなかった中国では、社会主義体制下の国民に保険は不要、ゆりかごから墓場まで共産党が面倒を見るというタテマエだった。
冷戦終結、社会主義は破綻した。改革開放の波に乗って、中国にも、いきなり生保ビジネスが導入されるや、引退後の生活や老後に不安な人々がどっと加盟した。
▼そもそも中国の生命保険は相互会社ではなく株式会社で出発した
こうなると保険企業は、たまる一方の保険代金とは対照的に投資対象に確実安全なものがなく、いきなり株式投資が許可され、ついで為替商品への投資もOKとなり、いや企業としての誕生そのものも、株式会社組織であり、株式市場に上場しているのである。
将来のインソルバント状況が訪れても、株式会社であるからにはプレミアム返却は100%保証されない。換言すれば中国の生保は基本的に「あぶない」のだ。
さて劉雲山の子、劉東飛が運用する資金は5000億元(邦貨換算7兆円)、そのうえ、毎年保険料収入による原資の嵩上げは1000億元(一兆四千億円)。
博訊新聞網(6月11日付け)に拠れば、この巨大投資資金を劉一家が関係の深い内蒙古省の石炭関連企業などの株式投資にあてたほか、恣意的な選択でファミリーの関係が深い企業の不動産を大量に購入したという。
ちなみに劉一家は山西省出身で、山西商人は昔から「晋商」といわれるほどに茶の行商の「安徽省商人(「徽商」という)と並んで「信用」があるが、劉一家がコネの深い石炭産業や、かれらの親戚が経営するデベロッパー開発の不動産投資など、あきらかに紀律違反であろう。
しかも劉東飛は経済学専門でも金融工学を学んだわけでもなく、もっと言えば二流大学出身組。本当にこんな男に投資をまかせておいて良いのか? 保険加盟者でなくとも懸念、心配の種であろう。
杜父魚文庫
9891 危うい中国最大の機関投資家「中国人寿保険」 宮崎正弘

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