9956 「珍奇な人」の次の一手 岩見隆夫

いまの政界に4世議員が何人いるか、ご存じか。6人いる。
初代の当選が古い順から、小坂憲次(自民・参院比例)、鳩山由紀夫(民主・衆院北海道9区)、同邦夫(無所属・衆院福岡6区)、古屋圭司(自民・衆院東海ブロック)、小泉進次郎(自民・衆院神奈川11区)、林芳正(自民・参院山口)、100年を超え、4代にわたって政治家を送り込んできた名門一族だ。
このうち、トップに上り詰めたのは鳩山由紀夫(以下鳩山)だけである。なぜこんなことを書くかと言えば、名門出の首相経験者という華麗なキャリアはめったにみられるものでなく、それだけ責任も重いからだ。
ところで、鳩山たちが創立した民主党は、消費増税法案の処理をめぐって分裂の危機にさらされている。このきわどい節目に、どんな行動を取ろうとしているのか。
一方で、鳩山の評判はよくない。<史上最低の総理……>などとあちこちに書かれている。最低かどうかはともかく、鳩山以前の30人の戦後歴代首相にくらべ、在任中と辞任後の言動が尋常でなかったため、政界も世間も驚き、酷評につながった。
しかし、鳩山を策謀家とみる人はいない。発言がぶれても、不純な動機ではなさそうだが、振幅の大きさにへきえきするのだ。引退宣言をしたかと思えば、取り消してみたり。
<秘密が守れない政治家ナンバーワン>というレッテルもとうに貼られている。知ったことは何でもしゃべってしまうサービス精神は、善意によるのだろうが、被害者も出る。
4月には、民主党の外交担当最高顧問としてイラン訪問の騒動が持ち上がった。
「国益に反する」と批判が渦巻いたが、鳩山は悪びれることなく、「行ってよかった。首相まで経験した人間として何ができるか。これからも努力していきたい」
と再訪問まで示唆した。批判者の中でも、公明党の漆原良夫国対委員長が、「鳩山さんは宇宙的な立場で発信しているが、……」
と皮肉ったのが印象に残る。鳩山の発想は地球的でない。地球上で演じられる国際・国内の錯綜(さくそう)する政治力学のなかで、一人浮き上がっているということだろう。俗っぽい政界にあって、前例がないほど珍しく、風変わりなことではないか。珍奇の人である。
現実の政局に戻ると、鳩山は、「野田(佳彦)首相が強引に(消費増税法案を)押し通せば、党が分裂する可能性が極めて高い」(17日、北海道苫小牧市の記者会見)
と述べた。野田が押し通すのは既定のこと、鳩山はどうするのか。
「政権交代の時、『消費税は4年間引き上げない』と明言して選挙で大勝利をおさめた張本人だから、その責任のなかで判断する」(9日、大阪市で)
と、はっきりしない。<小鳩枢軸>などと呼ばれ、これまで小沢一郎元代表と行動をともにしてきたのだから、そろって造反ということか。
政界はまた迷走を始めた。衆院選も近そうだ。選挙後の展開に目を凝らしながら政治家は動く。消費増税法案の1票はその始まりだ。
鳩山が首相に就任したころ、秘書官の一人から、「線が細く見えて、太い人ですね。どこでも、だれが相手でも態度が同じ。柳に風みたいでしぶとく、妙に気合を入れない」
と大人(たいじん)論を聞いた記憶がある。そんな面もあるのだろう。悪評のなか、サラブレッドで珍奇な存在の次の一手は、少なからず興味がある。(敬称略)
杜父魚文庫

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