4月13日に、北朝鮮が鳴物入りで、ロケットを南方へ向けて発射した。フィリピン諸島の東の公海に、落下することになっていた。
日本ではマスコミがこぞって、大騒ぎした。
マスコミは何よりも騒ぎを好んでいる。ロケットは打ち上げてから、すぐに解体して海面に落下したが、テレビはわが自衛隊の“虎の子の切り札”であるPAC3地対空迎撃ミサイルが、大型トレーラーに載せられて、深夜の街中を沖縄方面へ移動してゆく映像を、繰り返し放映した。
私は映像を見て、背筋が寒くなった。こんなことがあってよいのかと、わが目を疑った。
PAC3を搭載した自衛隊のトレーラーは、前後に護衛の自衛隊員を乗せたジープか、トラックを伴っているべきなのに、どこにも見当たらなかった。
トレーラーはまるでクロネコヤマトか、佐川の宅急便のように、交通信号が赤になるたびに停まった。
過激分子が移動中のPAC3を襲ったら、国民の血税を注ぎ込んだ、1発6億円もするミサイルが失われることになった。
防衛省から警察庁に信号を操作するように要請が行われなかったから、各地の県警は傍観するほかなかった。自衛隊の制服幹部にたずねたところ、「われわれとしてはそうしたいが、内局が許してくれないので、仕方がない」と、こぼした。
自民党政権時代から始まって、もう10年以上も、毎年、防衛予算と装備が削られてきた。民主党政権のもとで、限られた予算と装備によって国土を防衛するために、新しい「動的防衛力」という概念が導入されたが、輸送手段がないから、街中を運ぶことになる。
防衛省の構内にも、PAC3が配備された。やはり、テレビがこの光景を繰り返し、放映した。
防衛省はまわりを高層ビルや、マンションによって囲まれていて、構内を見降ろしている。ベランダか、窓から、PAC3が狙撃されたら、“虎の子”のミサイル・システムが破壊されてしまう。まるで、温泉街か、海水浴場の射的屋の景品のようだった。
一高射隊は四基の発射筒(コンテナー)によって構成されるが、ECS(射撃管制装置)、レーダー、車輛などを合わせたら、700億円になる。
北朝鮮のロケット発射をめぐって、テレビに多くの防衛問題の専門家が登場して、蘊蓄を披瀝した。だが、PAC3が丸裸で街中を移動したことや、防衛省の庭に無防備で晒し物になっていたことに、誰一人として触れなかった。
これでは、自衛隊は戦力にならない。吉田茂首相が自衛隊を「戦力なき軍隊」という迷句を吐いたが、自衛隊は日本国憲法の呪いから、いまだに脱することができないでいる。
今回、テレビによってスターとして扱われたPAC3は、1基の発射筒ごとに、4発のミサイルを装填することができるが、予算がないために、2発しかつめられていなかったという。
自衛隊は創隊以来、隊員のあいだで「たまに撃つタマがないのがタマにきづ」という自嘲的な川柳が、よく知られてきた。
東日本大震災に当たって、自衛隊が災害出動に大きく貢献したことが、国民から称えられている。しかし、そのために厖大な資材を消耗してしまった。それなのに、補填するための予算が、ほとんどつかないままでいる。
杜父魚文庫
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