消費税政局は「何でもあり」の様相が一段と深まっているが、自ずと禁じ手はある。ところが自民、民主両党から禁じ手そのものの動きが生じ始めた。
元首相・安倍晋三が民主党元代表・小沢一郎の出す不信任案に同調すると言えば、幹事長・輿石東は、首相・野田佳彦が政治生命をかけるという消費増税法案への造反者の処分を“意図的に渋る”意向を漏らしているという。
結果的にこれが造反者の数を増やす“効果”を生じさせている。安倍が3党合意違反なら、輿石は野田にとってまさに獅子身中の虫の本性を見せ始めたのだ。
いずれも、個利個略を優先するものであり、野田が油断すると千載一遇の社会保障と税の一体改革実現はすべてがぶちこわしとなりかねない。明らかに精神的な重圧にに耐えられず首相の座を投げ出した安倍だが、最近は“復権”に意欲を示して動きを活発化させている。
しかし24日の民放テレビにおける発言には驚いた。小沢が不信任案を提出した場合の対応について「小沢さんと組むと言うことではないが、1日も早く解散を実現するために活用することはある」と述べたのだ。「政権を奪還するためには1日も早く総選挙に持ち込むのだ」とも述べた。
安倍は3党合意にも不満なようで、民主党が信頼できないことを繰り返し強調、「3党合意が信頼に値しないとなれば不信任案に賛成する」と3党合意より不信任優先の考えを示した。どうやら安倍は3党合意は無視してでも小沢の動きに同調しようとしているようなのである。
野中広務の言う「小沢の悪魔」とでも手を組んで、政権復帰を果たそうというのであり、あまりにもマキャベリズムに堕している。そこには国家的悲願の消費増税法案が達成寸前にきていることへの思いなどかけらも見当たらない。
おそらく首相の座が限界であったのと同じように、安倍はもう野党でいること自体が精神的に耐えられない限界に達したのだろうか。異常なばかりの焦り方である。
一方で輿石の動きが野田との温度差を際立たせている。先に野党が絶対にのめない選挙制度改革案を提示したが、これは明らかに首相の解散権を封じて、持論の衆参同日選挙を目指す意図がある。
加えて党議拘束がかかる消費増税法案の採決に公然と反対を明言する小沢、鳩山由紀夫らに対する処分を、渋り始めた。除名処分でなく厳重注意や党員資格停止でお茶を濁そうとしているというのだ。これが小沢サイドに伝わり、チルドレンらを反対へと勢いづかせているのだ。
安倍から思わぬ“エール”を受け、側近輿石から大甘処分をほのめかされた小沢が、“はやる”ことは間違いない。この結果反対者の数も50台半ばに達した模様である。
衆院で離党者が54人以上になると、民主党は国民新党と合わせても半数に届かず、少数与党となって政権運営が不安定になる。永田町ではそれ以前に50議席確保がポイントとなるという見方が広がっている。
というのも議員が内閣の不信任案を発議するときは、50人 以上の賛成者が連署して、これを議長に提出することが衆議院規則で定められている。50人集まればいつでも不信任案を提出できるのだ。
ただ、いくら何でも衆院での法案可決の前に不信任決議を提案することは困難だろうし、これには野党も乗るまい。しかし舞台を参院に移せば小沢の不信任決議が一定のインパクトを生む可能性がある。
参院では自民党総裁・谷垣禎一も、「話し合い解散」に向けて最後の攻勢を仕掛けるだろう。当然与野党関係はぎすぎすしたものとなり、一触即発の空気も生まれてくるだろう。
世論調査の傾向としては依然消費増税法案に反対する空気も強い。もともと古今東西を問わず増税を喜ぶ国民はいない。小沢の狙いもそこにある。そのためには、消費増税法案を“阻止”した上で解散・総選挙に持ち込んだ方が大向こううけを狙えると踏んでもおかしくない。
不信任案が上程されれば国会の一切の審議はストップする。否決されれば問題はないが、可決されれば野田は解散を選ぶ。不信任案可決の場合、最高裁の違憲判決は後回しとなる。
首相は統治行為としての解散権を優先させることが可能だ。高度に政治性のある国家行為である解散については裁判所の審査権の外に置かれるのだ。そうなれば消費増税法案は宙ぶらりんのまま総選挙に突入することになるのだ。
小沢が“最後の勝負”に打って出るには都合のよい“魔球”だろう。そこへ思わぬ安倍の“援軍”であり、輿石の陰湿なる“うごめき”なのである。
しかし安倍発言は「いくらのことにもひどい。3党合意に泥を塗ることになる」(自民党幹部)とひんしゅくを買っている。よほどタイミングが合わない限り、党を挙げて小沢の不信任案に同調する形にはならないだろう。
可能性としてあり得るのは野田が「話し合い解散」に全く応じないケースであろう。その場合は小沢が不信任案を出す前に自民党が出す可能性が強い。もっとも谷垣の場合は、消費増税法案を潰すことになる形での不信任案の上程の仕方は避けるだろう。むしろ同法案成立後になる可能性が強い。マスコミから袋叩きに遭うことは必定だからだ。
したがって小沢の狙う消費増税つぶしの不信任案とは一線を画したものとならざるを得まい。小沢は人の通らない道・奇道を歩く政治家だが、小沢“べったり”の輿石はともかく安倍までが一緒に奇道を歩くとは恐れ入谷の鬼子母神だ。それにしても野田は脇が甘い。
杜父魚文庫
コメント