9978 異質の価値観で生き残ろうとするロシア、中国との闘いは先鋭化  桜井よしこ

プーチン・ロシア大統領の内外にわたる強気政策は将来展望が見えない。
同大統領は5月18日にキャンプデービッドで行われた主要国首脳会議(G8)を欠席した。組閣で忙しいとの理由だったが、真の理由は米国主導で配備が進むミサイル防衛網(MD)への反発だとみられている。
MDについて、5月22日に北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が欧州で初期段階の運用開始を宣言した。
軍事の専門家は、NATOのMDは、少なくとも現段階ではロシアの有する大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの捕捉能力はないと分析するが、ロシア軍のマカロフ参謀総長は激しく反発し、5月3日、欧州MD施設を先制攻撃で壊滅させることも排除しないと述べた(「産経ニュース」5月22日)。
強国としての復権を目指すプーチン大統領が米国主導のMD配備を、自国の戦略核兵器を無力化するものとして恐れているのは明らかだ。
あからさまなプーチン大統領の対米不快感の表明に、米国政府は9月8日からウラジオストクで予定されているアジア太平洋経済協力会議にオバマ大統領は欠席すると発表した。不快感のお返しである。
米国のみならず、いま国際社会全体がロシアおよび中国に不快感を抱いている。中国が2009年6月の国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁決議を破って、昨年8月に北朝鮮に長距離弾道ミサイルの運搬・発射用特殊軍用車両を輸出していたことが「朝日新聞」のスクープで明らかになった。
中国の安保理決議違反を突き止めたのは海上保安庁である。大阪港に入ったカンボジア船籍の貨物船を立ち入り検査し、上海輸出代理店発行の輸出目録を押収して証拠をつかんだ。日本政府は同情報を米韓両政府に伝え、米国が中国政府に問題提起したところ、中国は事実を認めてこう弁明したという。
「輸出したのは伐採された大型木材の運搬用だった」
木材運搬になぜ、ミサイルの発射台ともなる特殊車両が必要なのか。中国の偽りは明らかである。
他方、ロシア政府がシリアのアサド大統領に攻撃用ヘリコプターを提供し、それを輸送中だと、クリントン国務長官が6月12日の記者会見で非難した。「ロシアは攻撃用ヘリコプターがシリア国内向けに使われることはないと説明したが、それは明らかに真実ではない」。
ロシアと中国は似た者同士であり、国内に対する強硬策においても同様である。中国は国内の政府批判や反政府活動の徹底的取り締まりのために、世界第二となった軍事予算を上回る治安対策費を費やしている。その上で外国メディアを排除して、国際社会の目の届かないところで凄まじい弾圧と虐殺を行い、反政府勢力を壊滅させる。中国は「密室の犯行」にたけているのである。
ロシアの手法は、中国に比べると乱暴で拙劣だ。例えばプーチン政権は6月に入ってデモ規制法を改正した。5月6日に行われた反プーチンのデモでは多くの負傷者を出した。その映像は国際社会に広まり、プーチン政権の強権体質が印象づけられた。
プーチン大統領が考えたのは、新たな法を制定してデモを取り締まることだ。新法は、デモは届け出た通りに行わなければならないというもので、例えば、デモ参加者が届け出よりも多い場合は主催者に対して最高で100万ルーブル(約243万円)の罰金が科される。社会秩序を乱すと判断されれば、罰金だけでは済まないだろう。
この強権支配に6月12日モスクワでは5万人規模(主催者発表)の大規模デモが発生した。強権をもってしても国民の民主化への思いをたたきつぶすことは不可能だ。ロシアと中国、異質の価値観で生き残ろうとする陣営との価値観の闘いは先鋭化するばかりだ。(週刊ダイヤモンド)
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