中国の軍拡がアメリカのアジア戦略を変えていくという危機の報告を続けます。
<<戦後最大の危機に直面する米国のアジア戦略 中国の軍拡がアジアの安定と平和を揺るがす>>
中国がそうした軍事能力を保有することは、米国の、同盟諸国の危機への対応を大きく左右する。つまり、米軍は有事に同盟諸国が攻撃を受けても、実際の支援をすることが難しくなるという状況が生まれているわけだ。
(3)米軍の「遠隔地への兵力投入」能力への脅威
米軍のアジア戦略では、有事に大量の兵力を短期間に遠隔地へと投入する「パワープロジェクション」の能力が抑止力の大きな柱となってきた。例えば 中国軍が台湾を攻撃した際に大規模な米軍部隊を投入することがそれに当たる。ところが中国人民解放軍は最近米軍のこの能力を大幅に削ぐ力をつけてきた。
中国軍が最近開発した「DF21D」対艦弾道ミサイルは、中国の海岸部から海洋に向けて1500キロの射程で海上の標的を撃つ能力を有する。その標的となる最大候補は米海軍の航空母艦である。航空母艦は上記のパワープロジェクションの代表的な手段なのだ。中国のこの作戦は、米側では「接近阻止」と 呼ばれる。
中国はさらに「接近阻止」能力を持つディーゼルおよび原子力の攻撃型潜水艦隊の配備を進めている。これらの潜水艦は対艦の巡航ミサイルを装備しており、米軍艦艇への脅威となる。他にも高性能の対空・対艦ミサイルを装備した水上艦艇や、対艦巡航ミサイルを装備した海洋用の攻撃航空機を開発している。 これらはいずれも米軍のパワープロジェクションの能力を破壊し、接近阻止の目的を果たす新兵器類である。
中国の潜水艦などは、まだ米軍の艦艇の性能には及ばないと言える。しかし中国側の潜水艦の数の多さが有事の最初の段階で大きな威力を発揮して、米軍の動きを封じる危険が高まっている。
<米国はアジアの同盟諸国の防衛誓約を果たせなくなる>
以上、中国の軍事動向は、いずれも米国が長年のアジア戦略の中枢としてきた「拡大核抑止」や「パワープロジェクション」の能力を大幅に削ぐこととなる。その結果、米国はアジアの同盟諸国の防衛誓約を果たせず、地域の安定や平和を守ることも難しくなる、というのである。
こんな状態は当然ながら日本の安全保障にも根本的な影響を及ぼすこととなる。「アジアの均衡=米国のアジア軍事戦略の変容」報告が発する警告はそんな趣旨なのである。オバマ政権の対応とは激しく異なる指摘だと言える。
では、こんな深刻な現状に対し、米国はどんな対策を打つべきなのか。日本はどうすればよいのか。同報告が打ち出す提案を次回、紹介しよう。
杜父魚文庫
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