この人は政治家の発言と行動の重みを全く理解していないのだろうと思う。元首相・鳩山由紀夫は、自らの言動が消費増税法案への造反の数を合計73人まで広げたことが分かっていない。
首相・野田佳彦が鳩山1人だけを「党員資格停止6か月」の“重罪”にしたのは、「離党」を公言して反対した民主党元代表・小沢一郎よりも、鳩山の罪が“万死に値する”と判断したからに他ならない。鳩山は「何でわたしだけが」と自分が切られた理由が分からないほどルーピーなのだ。
造反議員への処分は野田と幹事長・輿石東に一任されて断行されたが、圧倒的に野田ペースで事は運んだようだ。元代表ら37人を除名としたのは、消費増税法案への反対投票をした上に、離党届を出して新党結成を目指している「反党行動」を重く見た結果だ。
これは「新党きずな」の前例から見ても当然のことだろう。最も注目すべきは離党届を出さなかった衆院議員19人のうち、鳩山だけを「党員資格停止6カ月」とし、残りの18人は党員資格停止2カ月と差をつけた点だ。一方、野田は参院の離党組12人については処分せず、離党を認めた。これだけは参院を刺激してはまずいという輿石の進言を入れている。
鳩山は3日「甘んじて受ける」と公言しながらも、夜の会合では「差別だ」と息巻いたと言われるが、言うまでもなくこれは差別である。党員資格停止6か月と2か月はその差が余りにも大きい。
つまり6か月では9月の代表選での出馬はおろか投票権すらない。加えて早期解散・総選挙となれば公認も受けられないからだ。鳩山はこの野田の怒りの真意が分かっていない。首相官邸筋によると、「首相は小沢さんよりも鳩山さんに対して怒っていた」という。その理由は小沢が離党を公言して反対投票を投ずる“確信犯”なのに対して、鳩山は野田にとって“扇動者”と映ったからだ。
つまり、「離党はしないが反対投票の行動に出る」といえば,「小沢にはついて行けないが反対はしたい」という議員らの“模範”になるからだ。処分も軽いという判断を広げてしまったのだ。おまけに鳩山は、増税法案には反対したものの、他の関連法案には賛成するという“奇策”を弄した。
これも厳しい処分を回避したいという議員らをあおる結果を招いたのだ。この結果、小沢一派だけの反対に封じ込めようとしていた、野田らの思惑とは別に合計73人の造反者を出す結果となったのだ。
鳩山は「差別」されて当然なのだ。むしろ年内の解散なら公認はされないから、野田の処分は「出て行け」と言っているに等しい。通常の感覚があれば鳩山は当然「出て行く」と言ってもおかしくないが、そこが宇宙人であり、ルーピーであるゆえんだ。最後まで切られたことの意味が分からないのである。
この鳩山を陥れようと虎視眈々(たんたん)と狙っているのが自民党だ。民主党の象徴である「鳩山落選」を目指して刺客を立てるのだ。衆院北海道9区にはとびきり上等の「タマ」を用意している。リレハンメル五輪の男子スピードスケート銅メダリストで道議会議員の堀井学だ。
選挙区では鳩山がもともと落下傘候補であるうえに、「男は恥を知るものだ」と面罵した元官房長官・野中広務のみならず全国民的な侮べつの対象となっていることから、人気が急落している。「元首相落選!」といった事態も十分考えられるのだ。
こうして野田は「小沢切り」のついでに「鳩山切り」も成し遂げた。昔田中角栄は沖縄選挙で自民党が300議席を超えたときに「300では多すぎる。党内がまとまらん」とかえって危惧(きぐ)したものだ。
小沢一派の離党が37人にとどまり、民主党が252議席と過半数を確保できたことは、野田にとっては不幸中の幸いだ。活用すれば望外の利を得る見込みのある機会を「奇貨」というが、さすがに野田は言葉の使い方がうまい。「このピンチを奇貨とし、決めることは決める責任政党として今まで以上に一致結束していきたい」と発言した。
前途は多難であるが、思い切った処分は、全党的にかえって締まる要素の方が大きい。真の意味での政党政治“復活”の機運として活用すべきことなのだ。
杜父魚文庫
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