中国の軍拡によってほころびが出るアメリカのアジア戦略を立て直すには、なにをすべきか。ワシントンの専門家たちの提言は明確です。
<<対中戦争のシナリオを描く米国国防総省>>
「米国は、第1にアジアの米軍駐留で従来の空母最重視から水上艦重視へと比重を移し、同時に潜水艦を増強する。アジアの米軍駐留全体のコストを削減する。さらに宇宙利用の軍事能力やサイバー攻撃能力を強化する」
「第2に、米軍のアジアでの基地の防御を強化する。同時に、日本や韓国など米国の同盟国の部隊も、近代化や戦闘能力増強を促す。米国と同盟国、有志連合国との部隊はF35戦闘機のような共同開発、共同配備の可能な兵器の導入を進める」
「第3に、米軍は同盟諸国の部隊とともに中国内部の中枢拠点を直接、破壊できる攻撃能力を高める。今は米軍は中国内部攻撃のシナリオをほとんど考えず、その能力も低い。そのため、中国はそれに備える防衛努力をせず、攻撃能力をもっぱら高めることができる」
この中で特に重要なのは第3の中国への攻撃能力の向上だろう。確かに中国は自国領土奥深くを攻撃される危険がなければ、財政資源をすべて攻撃能力の向上に投入することができる。
同報告は、米側の中国攻撃能力の向上手段として、潜水艦搭載ミサイルの強化、長距離爆撃機の新配備のほかに中距離ミサイルの再開発、再配備をも提唱していた。中国は中距離ミサイルを大増強しているが、米国は東西冷戦時代のソ連との軍縮によって全廃してしまったのだ。
同報告は、さらに新戦略として、米国が中国との実際の戦争の可能性を現実的に考え、その戦争が長期にわたることや、米国が同盟諸国と連帯を組んで一体になることを中国側に確信させることが重要だ、とも説いていた。
米中全面戦争を現実のシナリオとして考えての対応姿勢なのである。「戦いも辞さず」という態度こそが逆に戦いを防ぐという論理だった。
オバマ政権がこのような新戦略をただちに採用する見通しはないが、今年11月の大統領選挙で共和党のミット・ロムニー候補が当選すれば、ここで紹介した報告の作成者たちはほとんどが政権入りを期待され、この新戦略も現実の米国政府の政策として採用される可能性も高いのである。(つづく)
杜父魚文庫
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