春秋時代の呉・越両国の興亡を記した「呉越春秋」に「同病相憐れみ、同憂相救う」とある。「驚翔(きょうしょう)する鳥は、相したがいて集い、瀬の下の水は、よりてまたともに流る」と続く。11日に新党を発足させる小沢一郎は、いまその「同病」集めに必死だ。何でも一致する部分があると見れば「仲良くしよう」とばかりに接近する。
しかし、その共通項は「座して死を待つ」「何でも反対」「怨念」だ。そこに「新党」という響きの持つ期待感はなく、政党支持率を世論調査すれば、よくて1~2%、恐らくコンマ以下だろう。
小沢は4日、「新党」を11日に結成することを決めた。これに先立ち新会派を両院に届け出た。衆院で37人の「国民の生活が第一・無所属の 歩 ( あゆみ ) 」、参院では12人の新会派「国民の生活が第一」だ。同じメンバーで49人の新党となる予定だが、怖じ気づいているチルドレンもいて、まだ数は流動的だ。
新会派は衆院では公明党を抜き第3会派となり、参院では第4会派だ。いずれにしても、この数では、衆院で内閣不信任案の提出に必要な51人には遠く及ばず、さすがの「政局の権化」小沢も身動きがとれない。「数は力」をひたすら信奉する小沢としては、寄せ集めと言われようが、かき集めと言われようがとにかく数を集める必要に駆られているのだ。
そこでまず小沢が最初に対象としたのが「座して死を待つ」グループの“共闘”だ。先行して民主党を離党した新党きずな9人が対象だ。統一会派を作ることになる。きずなは小沢勉強会に出席するなど所属議員の多くが小沢に近く、もともと「小沢別動隊」みられている。
だから野党扱いしてもらえず、マスコミもNHKが日曜討論から外している。代表・内山晃は「我々は与党と野党の間の“ゆ党”」とぼやいているが、いったん総選挙となれば、小沢一派と同様に返り咲く議員はほとんどいない。
それでも不信任案上程には足りずに、小沢は「何でも反対」の社民党にすり寄った。 議会勢力としては、社会党の系統を受け継ぎ、今は全くはやらない極左路線の政党とも手を組もうというわけだ。共闘を組めれば6人“仲間”が増えることになり、ようやく不信任案が上程可能となる。
社民党も小沢路線の「反消費増税・反原発」と軌を一にしており、党首・福島瑞穂も、小沢が内閣不信任案を提出した場合について「反対する理由はない」と述べている。小沢も福島も互いに「魔女」とでも「悪魔」とでも手を組もうという姿勢だ。小沢は4日社民党副党首の又市征治と会談、反消費税と反原発での協力関係を要請している。
さらに小沢が1番力を入れそうなのが消費増税法案に反対しながら民主党にとどまった残留組との「怨念同盟」だ。1人だけ党員資格停止6か月を食らって、鳩山由紀夫の野田に対する怨念は日日募るばかりだ。
4日も残留組が衆院議員21人で、政策研究会を立ち上げた。メンバーには小沢鋭仁のように民放番組で「内閣不信任決議案が出て、我々が賛成すれば必ず通る。それだけの人数がいる」と息巻く向きもいる。同日の会合でも不信任案を野党が出した場合の対応についても話題になった。
いわば研究会は「小沢別働隊」になり得るものだ。鳩山も「原発再稼働反対、環太平洋経済連携協定(TPP)反対、反消費税などで小沢さんとは極めて近いし、協力関係もあり得る」と述べている。今後小沢は陰に陽に鳩山の怨念と残留組を“活用”して、政権を内部から揺さぶるよう仕掛けることは間違いない。
小沢は4日の新党結成に向けての準備会合であいさつ「皆さんと共に、3年前の国民との約束を何としても貫き、近く行われる衆議院の解散・総選挙で、国民の支持を得て、本来、われわれが目指した政権を作り上げるために一生懸命頑張っていきたい」と“懲りない男”ぶりを示した、しかし、離党に追い詰められて関ヶ原での敗退は誰の目にもあきらかだ。
落ち武者ばかりをかき集めても、手負いの小沢には展望は開けないし、前途には奈落が口を開けて待っている。空しい不毛の戦いを続けざるを得ないのは小沢という政治家の持つ業でもあろう。
杜父魚文庫
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