10094 中国とは「永遠の摩擦」を覚悟せよ 古森義久

尖閣諸島への中国の不当な領有権主張にどう応じるべきか。中国の意向を汲んで、日本の主権の明示さえも、差し控えよ、という意見があります。
こんな意見は結局は尖閣諸島の放棄につながります。
<<【緯度経度】ワシントン・古森義久 「永遠の摩擦」覚悟を>>
「俺のものは俺のもの、お前のものも俺のもの。南シナ海での領有権問題を扱うのに、公正な態度だといえますか」
こんな発言がフィリピン外務省の海洋問題担当代表のヘンリー・ベンスルト氏から出た。6月末のワシントンでの「南シナ海での海洋安全保障」と題する国際会議だった。主催は米側の大手研究機関「戦略国際問題研究所(CSIS)」である。この会議の特色は南シナ海で中国の領有権拡大の標的となった諸国の代表の発言だった。中国の海洋戦略攻勢が国際的懸念を高める表れである。
同じ会議でベトナム外交学院のダン・ディン・クイ院長も発言した。
「中国は結局は南シナ海全体を自国の湖にしようというのです。南シナ海紛争はその産物なのです」
フィリピンが主権を宣言する南シナ海の中沙諸島スカボロー礁の領有権を主張する中国は最近、艦艇を送ってフィリピン側を撃退した。この環礁はフィリピンの主島ルソンから250キロだが、中国本土からは1350キロの海上にある。ベンスルト氏の言もこの落差を踏まえての中国批判だった。
ベトナムは実効統治してきた西沙諸島から1974年1月に中国海軍の奇襲で撃退された。当時の南ベトナムの政権が米軍の離脱で最も弱くなった時期だった。クイ氏もそんな歴史を踏まえると中国の南シナ海制覇は自国の海よりも湖に、と評したくなるのだろう。
中国の海洋攻勢はプノンペンでの東南アジア諸国連合(ASEAN)主体の一連の国際会議でも主題となった。日本にとっても尖閣諸島の日本領海への中国漁業監視船の侵入は大きな挑戦となった。この監視船は米側では中国当局が準軍事任務の先兵とする「5匹のドラゴン」のひとつとされる。
こうした膨張を続ける中国に対し日本側では尖閣の実効支配を明確にする措置に反対する声も聞かれる。朝日新聞は東京都の購入に反対し、なにもせず、もっぱら「中国との緊張を和らげる」ことを求める。外務省元国際情報局長の「尖閣は日本固有の領土という主張を撤回せよ」という意見までを喧伝(けんでん)する。
しかし「中国を刺激するな」的なこの種の主張は中国側の尖閣奪取への意欲を増長するだけである。この種の融和は尖閣が日本領であることを曖昧にするのが主眼だから、それだけ中国の主張に火をつける。そもそも緊張の緩和や融和を求めても、中国側の専横な領有権拡大を招くだけとなる現実は南シナ海の実例で証明ずみなのだ。
米国海軍大学校の「中国海洋研究所」のピーター・ダットン所長は中国の海洋戦略の特徴として「領有権主張では国際的な秩序や合意に背を向け、勝つか負けるかの姿勢を保ち、他国との協調や妥協を認めません」と指摘した。「中国は自国の歴史と国内法をまず主権主張の基盤とし、後から対外的にも根拠があるかのような一方的宣言にしていく」のだともいう。だから相手国は中国に完全に屈するか、「永遠の摩擦」を覚悟するか、しかないとも明言する。
ダットン氏はそのうえで次のように述べた。
「中国が東シナ海の尖閣諸島に対してはまだ南シナ海でのような攻勢的、攻撃的な態度をとっていないのは、紛争相手の日本が東南アジア諸国よりも強い立場にあるからです。同盟国の米国に支援された軍事能力の高さや尖閣領有権の主張の論拠の強さには南シナ海でのような軍事行動や威嚇行動に出ても有利な立場には立てないと判断しているといえます」
だが中国は現在の力関係が自国に有利になれば、果敢な攻勢を辞さないということだろう。となると、日本側のあるべき対応も自然と明白になってくる。
杜父魚文庫

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