10135 中国海軍は日本海軍に及ばぬと中国ネット  古沢襄

一九六〇年の安保騒動を第一線の政治記者として体験した身にとって、あの時代における岸信介という首相の不退転の決意と行動はもっと正当に評価すべきだという見解を持ち続けてきている。国論を二分したと一口に言うが、日米安保条約の改定に反対した労働者や学生、市民が参加した政治闘争は、戦後史上、最大の規模となり、改定条約を衆院本会議で強行採決した際には、政権与党内から石橋湛山、河野一郎、松村謙三、三木武夫らが欠席、あるいは棄権する造反があった。
国論を二分したどころか、岸一人で首相官邸に立て籠もり、強引に安保改定に突き進んだ観がある。マスコミもこぞって岸の強引な政治手法を糾弾している。反安保闘争は次第に反政府・反米闘争の色合いを濃くしていって、過激派による火炎瓶や鉄パイプで暴力を振るう暴動・紛争という色合いを強めた。
国会周辺を囲んだデモは主催者発表で33万人(警視庁発表で13万人)という空前の規模にまで膨れ上がって、国会突入を図った全学連の学生たちに放水車まで動員して阻止する機動隊と激しくぶつかった。
岸を囲む御前会議で池田勇人、佐藤栄作らは陸上自衛隊の治安出動を唱え、防衛庁長官だった赤城宗徳が反対する局面があった。この御前会議には二人の岸側近記者(日経と共同)がいたことは、あまり知られていない。二人の記者は改定安保の批准後、すみやかな首相退陣を建言し、池田と佐藤は色をなして怒鳴る状態になったので、沈黙していた岸は「もういい」と議論を打ち切っている。
安保改定の内容は、外相だった藤山愛一郎が駐日米大使だったマッカサーの間で最終合意している。主な点は
①内乱に関する条項の削除  旧条約では日本の国内における内乱は、米軍が出動、鎮圧する取り決めとなっている。
②日米共同防衛の明文化(日本を米軍が守る代わりに、在日米軍への攻撃に対しても自衛隊と在日米軍が共同で防衛行動を行う)。
③在日米軍の配置・装備に対する両国政府の事前協議制度の設置。
岸は藤山の報告を聞いて不機嫌だった。対米交渉で日本の独立性をもっと明文化したい意向を持っていたが、当時の日米関係ではこれ以上、踏み込むことは事実上、不可能であった。そこから日本の再軍備を図るために憲法改正の政治テーマが浮上する。
反共主義者の岸は日米同盟強化による日本の安全保障を企図している。岸に反対する野党は「日本がアメリカの戦争に巻き込まれる」と反対し、この流れは変わっていない。さしもの安保反対デモは岸退陣によって潮がひくように消え、岸によって作られた改定安保条約はいまでも維持されている。
吉田首相がレールを敷いた経済重視の”軽武装国家論”は、むしろアジアで最強の海上自衛隊に変貌している。このことは日本の国内世論よりも、中国の方が強く意識している。中国の『環球ネット』が、中国海軍は強化されたが、それでも日本海軍に及ばぬという論評を掲げて問題になった。
<<『環球時報』日本海軍に及ばぬ報道、「軍隊分裂」と見なされる>>
<【大紀元日本7月23日】周永康氏や曾慶紅氏らが強大な影響力を持つ『環球時報』の傘下にある「環球ネット」は7月17日、「海軍少将、中国海軍はなお強大にならず、日本を追い越したとは言い難し」と題した記事を掲載し、時局に反動したものとして、注目されている。この記事は、掲載後まもなくサイトから消去された。
報道によると、元海軍装備技術部鄭明部長が南京で、記者のインタビューに応じ、「海上で法権執行を行う中国の関係機関の船舶と海軍は近年、装備を更新し、かなりの進歩を成し遂げた。しかし、日本を追い越したとは言い難い」とし、「海上での法権を守るなどの能力において、準軍事部隊である日本海上保安庁は、長い歴史を有し、艦船の排水量、艦船の速度、機動性などに優れ、訓練も充分に行われている。船上には、ヘリコプターも配備しており、その実力は長い間、我が国の公務船舶を上回っている」と見解を述べた。
そして同氏は、「海上でいざとなれば、中国は人間を頼りにする。中国の海上法権を守る人員と海軍は死を恐れず、祖国の海域を守る能力と水準があると信じている」、「近年、中国海軍の装備は順次更新され、技術も近代化へと進歩してきた。しかし相対的には、その発展は日本を全面的に越えているとは言い難い」と付け加えた。
上記内容を「環球ネット」が報道する前の7月6日、次期指導者の習近平国家副主席は、「世界平和シンポジウム」において、「国家の主権、安全、領土をしっかり守る上で、われわれは近隣諸国との関係や地域の安定を維持する」と述べた。
翌7日、中国解放軍の機関紙『解放軍日報』は、習近平国家副主席の発言を紹介し、「日本は釣魚島(尖閣諸島)問題で挑発的な行為を即時止めるべき」と強調した。その後、中国海軍は東シナ海で軍事演習を行ったが、それも日本に対する警告だと思われる。
人事や政権交代の敏感な時期であるだけに、「環球ネット」の上記のような時局に背いた言論は、中国問題の専門家たちの注目を引いた。
米国ワシントンの中国問題専門家・石藏山氏は、「この時期に、このよう報道が掲載されたのはきわめて尋常ではない」と見ている。同氏は、「先ず、評者は、元海軍装備技術部部長として、自分の元職務領域を超え、船舶の状況について評したことは、ごく異例である。また、解放軍の装備は日本に劣り、死を恐れないことに頼るしかないとも述べた。言い換えれば、一旦東シナ海で有事となれば、多くの人が死ぬことになるというわけである。これは、あきらかに習近平氏の「主権維持論」に水を差したものであった。すなわち、主権維持の結果は、多くの人が死亡するという構図である」と指摘した。
また同氏は、「周永康氏や曾慶紅氏らが強大な影響力を持つこの「環球ネット」があえてこのような発言をしえたのは、劣勢にある彼らが時局を掻き乱そうとしたものとしか考えられない。掲載後、間もなくして消去されたことからも、その時局撹乱の意図が証明されたし、それにもたらされた結果も厳重なものになると思われる」と分析した。(大紀元)>
杜父魚文庫

コメント

タイトルとURLをコピーしました