10143 細野氏が言う菅氏の「生き残る嗅覚」について 阿比留瑠比

まずは、今朝の産経が2面で掲載した陸上自衛隊訓練に関する区役所対応を批判した記事に関する「おわび」について、私も産経記者の1人として関係者の方々に心からおわびします。今回の記事には一切かかわっておらず、どうしてこのような結果になったかは把握できていませんが、記事の根幹部分に誤りがあるのは間違いなく、釈明のしようがありません。
上記の問題を踏まえた上で、自分たちの問題は棚に上げるようで心苦しいのですが、いつものように雑文を記そうと思います。
さて、福島第一原発事故に関する「民間事故調」が昨夜、菅直人前首相ら政治家5人のヒアリング内容をホームページ上で公開しました。これについては今朝の産経政治面のミニ・ニュース欄で、細野豪志原発事故担当相が「菅氏は何の躊躇もなく『(東電の)撤退はありえない』と言った。日本を救ったと今でも思っている」と述べていたことが記事化されていました。
そこで早速、民間事故調のHPで確認したわけですが、ただ細野氏のヒアリングは昨年11月19日付なのですよね。なので、「国会事故調」と「政府事故調」が相次いで菅氏による東電の全面撤退阻止という都市伝説を否定した現在も、細野氏が「菅氏が日本を救った」と思っているかどうかは分かりません。でも、自分たちの過ちは認めない人たちなので、あるいは共同正犯として自己正当化のため、今も頑なにそう思い込もうとしているかもしれませんね。
で、細野氏のヒアリング内容を読んでいて、興味深いと感じた部分があったので紹介します。確かに菅氏の首相在任時、こういう話題にたびたびなったなあと思い出したもので。
細野氏 「私は菅直人という政治家の生存本能というか生命力って凄まじいものがあると思っていて、この局面で我が国が生き残るためには何をしなければならないのかということについての判断は、これはもう凄まじい嗅覚のある人だと思う」
どうしてこの部分にことさら注目したかというと、私も昨年5月15日付の産経コラム「日曜日に書く 心は見えずとも思惑は…」の中で、こう書いていたからです。
《「菅は能力的にはダメだけど、生き残るための嗅覚はすごい」民主党の閣僚経験者の一人はこう漏らす。だが、その生存能力は国民のためとは思えない。》
……私も細野氏と途中までは認識を共有していたわけですが、結論は異なるようです。ちなみに生命力というと、特段関係はありませんが、ネムリユスリカの幼虫は、乾燥状態の幼虫を零下197度の液体窒素に1週間漬け込んでも、濃度100%のエタノール溶液に1週間漬け込んでも、90度のお湯に1時間漬け込んでも、水を与えると1時間後には動き出すとのことです。
話を戻すとまた、政府、国会、東電、民間の4事故調の中で、東電関係者から聴取できなかった民間事故調だけが菅氏が東電の全面撤退を阻止したという説に軍配を上げているわけですが、今回公表された菅氏へのヒアリング内容の該当部分を読んでみて、随分と甘い質疑だなあという印象を受けました。
HP上ですぐ読めるので、実際にご自分の目で確かめて判断してもらえばいいと思うのですが、民間事故調側が「東電の全面撤退は官邸側の誤解だったのか」と質問したところ、菅氏はこう答えています。
菅氏 「私からすると、責任ある私の次に責任ある立場の人間(海江田万里経産相、枝野幸男官房長官ら)のところに撤退したいという話があったということは、私にとってはあったということです。当然じゃないですか」
これに対し、民間事故調側もさすがに「関係各所に確認はしたのか」と再度尋ねていますが、菅氏にこう一蹴されています。
菅氏 「経産相、さらに官房長官というのは一番中枢の中枢だから、彼らはきちんと来ているというのに、彼らの責任できちんとそういう会話があったということを、私はそうかなと思って、それを前提として会議を開いて、その上で東電社長を呼んだわけです」
……実際はもう少し詳しく記されていますが、全部書き写すのは面倒なので要約しました。ただ、読みながら、民間事故調はよくも一番の当事者である菅氏とこの程度のやりとりしかせずに全面撤退問題で官邸側の言い分が正しいという結論を出したものだなあと不思議に思いました。
以前も書きましたが、私は当時の官邸の中枢メンバーが、「東電が全面撤退を申し入れてきた」と信じていたこと自体は全く疑っていません。ただ、それが東電への不信感が招いた勘違いによる独り相撲ではないかとは、かなり早い時期から感じるようになり、産経紙面その他でそう指摘してきました。
それが4つの事故調のうち、3事故調までがほぼ同様の結論を導いたことで、おおむね世の中のコンセンサスになったかと思えば、ネット上で表明されるさまざまな意見を見ると必ずしもそうではないようです。いまだに、菅氏英雄伝説や、いかなる根拠があってか菅氏が首相でなければ東電は全面撤退していたという主張がまかり通っていて頭が痛くなります。
まあ、何をどう考えようとその人の自由だと言ってしまえばそれまでなのですが、どうしてこうも人と人とはわかり合えないものかと、いい歳して青臭いことを考え込んでしまいます……。
杜父魚文庫

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