10203 追い込まれた野田首相はへたり込むのか打って出るのか 阿比留瑠比

さて、野田佳彦首相は本日、広島市内での記者会見で、将来の原発依存度に関して「政府としてはエネルギー環境戦略を責任を持って決定し、中長期的に国民のみなさまの安心できるエネルギー構成の確立を目指していきたい。その中で、特に(原発依存を)ゼロにする場合にはどのような課題があるか、関係閣僚に指示する」と述べました。
……なんか、いよいよいろんな意味で追い込まれてきて、あらゆる方面にいい顔をしようと譲歩しだした感がありますね。当初は会わないはずだった反原発デモの代表者らと面会するようですし、先日は、リベラル派の岡田克也副総理らに反対されると駆けつけ警護を可能とするPKO法改正案の提出をあっさり断念しました。集団的自衛権の政府解釈見直しにも言及しましたが、これも言ってみただけなのでしょう。
官邸の中枢でかえって情報過疎に陥って、きちんと客観情勢や正確な情報が耳に入らなくなっているのか、もともと友人、知人が少なくて頼りにする相手もいないのが災いしてか、最近はどうしていいのか分からず、なにやら口に出してはすぐ引っ込めるというパターンにはまっているようにも見えます。そろそろ野田首相も心身ともに限界なのかなという印象を持ちます。
で、話を初めに戻すと、この野田首相のエネルギー戦略発言を聞いて、昨年の今ごろのあるエピソードを思い出したので、ついでだから記しておきます。まだわずか1年ちょっと前のことだったかと不思議な気がするぐらいですが、昨年7月13日には当時の菅直人首相が突如記者会見を開き、「原発に依存しない社会を目指すべきだ」と「脱原発」宣言をしました。
それに先立ち、菅氏は経産省に、稼働可能な自家発電設備などの調査を指示し、新たに供給可能な余剰分はどれくらいあるか調べさせていました。いわゆる「埋蔵電力」が大量に眠っていることが分かれば、自身の脱原発政策は大きく後押しされるという思いつきでした。
これに対し、経産省側は上積みできる余剰分は160万キロワットに過ぎないと回答すると、菅氏はこの自身にとって「不都合な真実」を信じようとはせず、経産省が隠しているに違いないと今度は、改めて「文書で電力供給に関する必要な情報をすべて開示すること」と指示しました。
これについては、当時の海江田万里経産相が7月27日の衆院経産委員会で泣き顔で「私は全部開示してきた。これまでやってきたことはほとんど無駄だったという思いだ」と批判していましたから、あるいは訪問者の皆さんもご記憶にあることと思います。
そして結局、菅氏が頼みにした政府のエネルギー・環境会議が同月29日に公表した結論は、供給可能な埋蔵電力はおおむね「原発1基分」に過ぎないというものでした。このときは、当時の玄葉光一郎国家戦略担当相が記者会見で、こう指摘していたのが印象的でした。
「菅首相にも申し上げたが、詳細にみると自家発電はかなりあるが、売却しているとか契約しているとか自分で使っているのが現実だ。現実は現実として直視しなければならない」
……このときから1年がたちましたが、あまり再生エネルギーの分野や埋蔵電力の利用法について飛躍的な進展があったとは聞きません。まあ、菅氏の場合は半ば妄想、妄執に取り憑かれていて、とにかく自分の主張を何とかして正当化したかっただけでしょうが、野田首相の場合はいまさら閣僚に指示して何をしたいんでしょうね。
何か、すでに結果の見えていることを、ポーズか時間稼ぎのためにやってみせているだけのようにも感じます。どうにもあまり腹が据わっているようには見えません。まあ、野田首相がどうなろうと知ったことではありませんが。
そういえば、4日の毎日新聞のミニ記事によると、民主党の前原誠司政調会長は3日の講演で、内閣支持率が一層下落すれば野田首相は衆院解散・総選挙に踏み切るとの見方を示したそうです。前原氏は
「首相は先送りをすれば良いという考えではない。遅れれば遅れるほど支持率が下がるなら、どこかで選挙をしなければならない(と考える)」
と語ったそうです。ふーん、そういうものかなと読んでいたところ、今朝の朝日新聞に載っていた世論調査では、内閣支持率は22%と過去最低となり、危険水域に入ったとありました。さあ、前原氏の見立てのように進むでしょうか、それとも野田首相は、あらゆる方面に頭を下げて妥協してとにかく延命を図るでしょうか。
対する自民党側は今や解散に向け、「行け行けどんどん」のお祭り騒ぎになっているようですし、いよいよ待ちに待った局面になってきました。この暑さだけは何とかしてほしいところですが。
杜父魚文庫

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