10204 スパイと技術盗用の疑念ある華為技術   宮崎正弘

華為技術(電話・通信機器、システム設備)はスパイ機関か?特許世界一のマンモス企業の社長は人民解放軍出身の謎の人物。
もともとはちっぽけな、誰も相手にしない通信機器の販売会社だった。華為技術有限公司は、1888年に深センで設立され、仲間7名ほど、資本金わずか5000米ドル。主として香港から電話交換機を輸入し、それを農村部へ売った。
それがいまや世界中に拠点を拡げ140ヶ国に進出している。
たとえば英国ではサイバー攻撃防御装置を、英国情報機関のシステムに売却するほどに大躍進を遂げて、他のメーカーは戦々恐々となっている。2012年上半期の販売額は160億ドル、世界全体のネットシステムの16%占め、ノキア、アルカテル・ルーセント、シスコ・システム、ZTE社を凌駕するまでになった。
アフリカ諸国の通信システムは殆どが華為技術。カナダ、ニュージーランドなど自由主義国家でも通信のインフラ建設に華為技術公司のシステムを使い、この三月に豪政府は、いちど契約寸前までいった同社システムを議会が拒否した。
ハッカー攻撃に悩む米国は、華為のシステムを『スパイ』と警戒している。技術を盗み出されたという認識からである。
創業者の任正非(レン・ゼンフェイ)は1944年生まれ、「太子党」ではなく党の幹部とのコネもなかった。任は重慶大学で工学を学んでから軍人として仕え、78年除隊後の十年間はどこで何をしていたか誰も知らない。本人も語らない。そればかりか当該企業のHPにさえ、顔写真がないのだ。
伝えられる「伝説」は、苦労して辛酸をなめていた時代の愛唱歌が「北国の春」。千昌夫の哀愁に満ちて独特な田舎台詞に泣き、そして日本人の勤勉さに感動したというが、この話さえどことなく嘘くさい。
突然、この華為技術はあたった。独創的な交換機「C&C08デジタル」を売り出し、中国の農村部から売り歩き、最終的に毛沢東のように「農村から都市へ」包囲網を拡げ、市場シェアを拡大した。
いまや欧米アジア、中東からアフリカまで、この分野では世界一のエリクソンにあと一歩と肉薄しており、ノキアの規模をとうに抜き去った。
▼すでに中国製通信器機、システム設備はノキアを抜き去っている
強力な販売力は「圧強戦略」と呼ばれるが、あまりに苛酷な労働条件のため、人の移動が激しく、一年に10%の社員が辞め、同時に新しい技術者がやってくる。世界に社員は14万人。おもに特許を狙う技術畑のエンジニアが多く、R&D(研究開発費)に売り上げの10%をも注ぎ込むそうな。14万人の社員の44%が研究開発部門に在籍し、中国政府の補助金のつくプロジェクトの開発にも余念がないという。
さて英米が懼れているのは、華為に盗まれたハイテク技術。ソフトウエアに暗号など。
華為は中国人民解放軍の仕事が多く、こうなると技術スパイが疑われる。げんに欧米のいくつかの国では華為製品を政府が購入することを制限しているうえ、議会、シンクタンクで華為批判が渦を巻いている。
「もし、システム全体でなくとも、中枢部に華為技術の器機を使い、そこに『トロイの木馬』が仕掛けられていたとするなら、しかも、それが中国の通信戦略であるとすれば、世界の通信システムは一瞬にして無力となる」と警告する専門家が増えた(英誌『エコノミスト』、12年8月4日号)。
スパイと技術盗用の疑念が晴れない限り、華為技術の北米市場への進出は難しいだろうが、日本にはすでに華為技術日本支社が大手町にある。
杜父魚文庫

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