さて、東電は昨日ようやく、社内テレビ会議の映像の「一部」を公開しました。ですが、事前に伝えられていた通り、当時の菅直人首相が3月15日未明に東電本店に乗りこみ、大演説をぶったシーンは音声がなく、どうにも真実に迫れない隔靴掻痒感がありますね。
私はこのときの菅氏の様子、というか狂気については、実際に現場にいた人からある程度聞いていますし、6月4日のエントリ「菅前首相の東電本店での指さし確認行為について」(http://abirur.iza.ne.jp/blog/entry/2709940/)でも触れているだけに、ぜひ音声が聞きたいところです。政府関係者でも東電関係者でも、誰か録音している人があればぜひご一報いただきたいのです。
ともあれ、今朝の在京各紙はこの東電による映像一部公開について当然、記事にしていました。それらの中から、印象に残った部分を備忘録代わりにここに抜き書きしておこうと思います。菅氏自身は5月28日の国会事故調参考人聴取で
「私の気持ちで申し上げると、叱責という気持ちは全くありません。何か、よく怒鳴ったと言われるんですが、まあ、私の夫婦げんかよりは小さな声でしゃべったつもりであります」
と述べていましたが、各紙は映像を見てどのように伝えているでしょうか。公の場である国会事故調で菅氏が証言した通り、果たして静かに小さな声で話していたのでしょうか。それとも、いつものように、息を吐くように国会と国民を愚弄する嘘をついていたのでしょうか。
毎日《約5分が経過した後、熱がこもってきたのか、目前の東電社員に向けて左腕を振り上げたり、東電社員を指さすような仕草を見せた。(中略)菅氏は11分の演説を終えると、再度マイクを手にして約3分間のスピーチ。細野(豪志)氏にマイクを返した後も、福山(哲郎)氏とともに両手を頭部で広げて爆発を表現するかのような仕草を見せ、東電社員にしきりに何かを訴えていた。》
読売《右手にマイクを握り、左手を腰に当てて、話し続ける菅首相。6分後あたりから街頭演説さながら、左手を激しく降ったり、拳を大きく振り上げる姿が目立ち始める。(中略)映像では、居並ぶ幹部らを一人一人指さしながら見回している。(中略)約11分後、菅首相はいったんいすに座ったが、再び立ち上がってしゃべり始めた。両手で大きなジェスチャーを交えながら話す管首相は、マイクを渡そうとする司会の細野豪志首相補佐官の手をはねつけてまでしゃべり続ける。(中略)東電の社内事故調査委員会の最終報告書は、首相の発言を聞いた現場の社員らは「憤慨や戸惑い、意気消沈、もしくは著しい虚脱感を感じた」としている。》
東京《無音だが、身ぶり手ぶりから叱責の厳しさが伝わった。激しい動きは約十三分続いた。(中略)この様子を福島第一の職員らが見入っていた。菅氏の姿が消えると額をぬぐう東電幹部もいた。》
日経《菅首相は正面、右、左と幹部や社員らを見据えるように何度も体の向きを変えた。腕は宙をたたいたり、幹部らを指揮者のように指さしたりと振り回し続けた。表情はうかがえないが、感情の高ぶりは不鮮明な映像からも十分に伝わる。(中略)約11分間しゃべり続けていったん着席。飲み物を勢いよく口に注ぎ、3分後にマイクを再び握ると、一段と大きな手ぷり。幹部の席の前に歩み寄り、さらに5分ほど話を続けてから退室した。公開映像の範囲に限っても、菅首相の演説は20分以上。この間、本社の東電幹部は対応に追われ、福島第1原発の幹部や社員らの動きも止まった。結果的に、事故対応が一時、完全に停止したことは明らかだ。》
産経《テレビ会議映像にはマイクを手に、東電幹部を指さしながら話をする菅首相の姿があった。(中略)国会事故調の聴取に対し、「叱責というつもりはない。夫婦げんかよりは小さな声でしゃべった」と説明していたが、前のめりで話す様子からは、冷静さを欠いた状況が読み取れる。菅首相のこのときの行動が「日本を救った」と美化する向きもあるが、東電本店を訪れてから(災害対策室を)立ち去るまでの約20分間、第1原発などでは職員の動きはほとんどなく、復旧作業に支障を来した可能性もある。》
……なぜだか、朝日にはこの菅氏の映像に関する記事が見当たりませんでした。朝日は、東京地検や福島地検などが東電幹部や政府関係者らに対する業務上過失致死傷容疑などでの告訴・告発を一斉に受理した際にも、告発対象者の中でもニュースバリューが高いはずの菅氏の名前を外していましたね。ホント、不思議な新聞です。
それはともかく、菅氏は今回公開された映像の一部に音声がないことについて、「画像は残っているのに音が残っていないのは不自然」「事故の解明のため全面的に無条件に公開すべきだ」とコメントしました。これまでほとんどなかったことですが、私もこの意見に賛同します。
公開された映像の中には、東電の武黒一郎フェローが菅氏について「イラ菅という言葉があるけども、とにかくよく怒るんだよね。私も6、7回どつかれました」「『どういう根拠なんだ!それで何があっても大丈夫だと言えるのか』と散々ギャアギャア言う」と述べている場面もあります。非公開分には、こういう率直な感想もきっと、たくさん含まれていることでしょうし。
東電は当初こそ菅官邸や政府に遠慮も配慮も恐れもあったんでしょうが、もう失うものなんてほとんどないんだし、菅氏もせっかくああ言っているんだから、もっと赤裸々に全てを公開してほしいと願います。
※追伸=さきほど菅氏の7日付のブログをチェックしたところ、「東電で私が話した真意」と題してこう書かれていました。
《私が東電本店に乗り込んだのはそうした最大の危機の中であり、対応を間違えれば日本は国家としての存続が危なくなると考えていた。今、東電が撤退したら日本が危なくなる。何としても踏ん張ってもらいたいという気持ちを率直に述べた。叱責したのではなく命がけで頑張って欲しいとお願いし、鼓舞したのだ。そして、私自身もその覚悟であることを吐露したのだ。音声が公開され、しっかり聞いていただければ、私の真意は分かってもらえると信じている。》
また菅氏得意の自身の脳内限定の記憶変換がいつのまにか施され、自身が何をしゃべったが都合のいいようにすり替えられ、美化されてるようです。それにしても「鼓舞」ねえ。菅氏の場合、ホントにそう思い込んでいるのでしょうから度し難いですね。またそれを信じる人がいるからなあ。やれやれ。
杜父魚文庫
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