10231 お盆を糠漬けで迎える  古沢襄

ロンドン五輪・スポーツの祭典が間もなく閉幕する。日本は十三日からお盆の季節。和風にいえば、祭りが終わり、鎮魂の日がくる。都会風にいえば、帰省ラッシュの混雑が始まるということか。
昔はお盆がくると、迎え火を焚き、仏壇に「精霊馬」(しょうりょううま)と呼ばれるきゅうりやナスで作る供え物を置いた。精霊馬の足は割り箸で作る。きゅうりは馬、ナスは牛。
亡き人の霊魂が精霊馬に乗って、お盆の期間中は家に戻ってくると信じられている。
そのせいか、二日間たて続けに母の夢をみた。お盆がくるので、戸口のところまで来ているのかもしれない。そろそろ仏壇を綺麗にしておかねばならないと思いながら、無精者だからまだ行っていない。
母の夢には、いつも食べ物が出てくる。
昨晩は糠漬け、それも古漬けを細かく刻んで、ショウガを刻んだ懐かしい味が出てきた。信州女の母は魚料理が苦手であった。山国だから新鮮な海の幸には縁がない。朝晩、糠漬けに手を入れて、かき回していた。キャベツやきゅうり、ナスの古漬けにショウガを刻んだものが得意料理だった。
ナスは古漬けよりも、一夜漬けの綺麗に漬かったものがおいしい。しかし小説書きだった母は、忘れてしまって、色が変わったナスを出してくる。いきおい古漬けの調理法が得意となった。多少、酸っぱい古漬けは、意外とおいしいものである。
そう思うと無性に古漬けが食べたくなった。わが家は糠漬けをやったことがあるが、塩加減、唐辛子の入れ加減で失敗している。おまけに母ほど糠をかき回さないから、いつの間にか黴が生えて捨てる始末。
それでも古漬け欲しさに糠を買うことにした。塩や唐辛子も上物を仕入れるつもりでいる。そろそろ店があいた頃だ。いつまで続くわが家の糠漬けだか分からないが、お盆の期間中だけは、せっせと漬け物桶をかき回すつもりでいる。
杜父魚文庫

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