さて、永田町ではいつ衆院解散・総選挙となるかが最大の関心事となっています。まあ、そりゃ政権の枠組みも変わる可能性が大ですし、何より解散とはいわば衆院議員のクビ斬りなので、秘書さんも含めて大量の失業者を生み出す議員にとってはまさに生きるか死ぬかの大問題ですからね。
で、巷間言われている有力な見立ては、野田佳彦首相と自民党の谷垣禎一総裁との間で「近いうちに信を問う」という約束がなされたことをもって、今年10月ごろに解散がある可能性が高いのではないかというものです。谷垣氏としては、党の金庫がいよいよ寂しくなっているし、今国会で解散に追い込めないと谷垣降ろしが本格化するので、何としても会期末解散にもっていきたいところでしょう。
まあ、いずれにしろ、野田首相が「近いうち」と表明した以上、その流れはどんどん大きくなるだろうと思います。いったん潮流ができてしまうと、それに抗うことは難しくなります。昨年は「一定のめどがついたら」という実に嫌らしい言葉が流通していましたが、延命学の大家がいかに力の限りを尽くそうと、レールが敷かれ、外堀も内堀も埋められてしまうとどうしようもありません。
ところが、この解散の時期について昨夜、ある会合で野党議員から全く異なる見立てを聞き、うーん、なるほどそういうパターンもないではないなあと感じたので紹介します。国民不在のとんでもない事態を予想・懸念した中身なのですが、あの民主党ならあり得るかなと。
それは、9月21日の民主党代表戦で、野田首相の対抗馬がある「公約」を掲げたらどうなるかというものでした。現在は野田首相の再選がほぼ確実視されていますが、対抗馬が消費税上げ凍結でも脱原発でもなく国会議員定数削減でもなく、「来年夏の衆院議員任期満了まで解散はしない」という旗を掲げたらどういう現象が生じるかと……。
野党議員いわく、「そもそも今度の民主党代表選では争点になりそうなテーマがないでしょう。野田さんもTPPにしても原発にしても安保政策にしても、当たり障りのないあいまいなことしか言わないはずだ。ただ、そこに『解散の是非』を争点にする相手が出てきたらどうなるか。民主党議員は一日でも長く議員で居続けたいわけだから……」とのことでした。うーん、なるほどなあ。
もし本当に、近いうちに解散するかしないかが民主党代表選の最大の焦点となったとしたら、これほど内向きで国民不在な話もありませんが、案外あり得るような気もしてきました。現に輿石東幹事長なんて、野田、谷垣両氏のどちらかが代表・総裁から外れたら、「近いうちの解散」も白紙だと堂々と明言していますしね。
それで「解散しない派」が勝利すれば、野党の猛反発で国会はずっと停滞(というかフリーズ)して政策は何も実現せず、内政も外政も全く進まないまま、いたずらに時が浪費され、われわれ国民はいよいよ政治に絶望し、忌避感すら抱くことになるでしょう。それでも任期満了は無理だと思いますが、あるいは国民生活を人質に焦土作戦に出るかもしれないし。
もちろん、そんなアンモラルな税金(議員歳費)の無駄遣いは国民世論が許さないと思いますし、その可能性が高いとは思いませんが、何でもありの政界であることを考えると、あながち全否定はできないなと……。
以上、酒の席で聞きかじったことをぼんやりと反芻してみただけの話ですが、要は「政界一寸先は闇」はいつでも真理だということです。人間のやることはあまり合理的でなく、整合性も何もないことが多いので、おおまかな「たぶんこうなる」という予測はできても、本当は当事者も含めて先のことなど何も分かりません。
私がいわゆる「陰謀論」にいつも否定的で、そんなのありえないと考える理由の一つは、政治が誰かの描いた絵図の通りに動くことなんてないと思っているからでもあります。ことが確定した後で、「そら見ろ、俺の言った通りだ」と言いふらす政治家はたくさんいますが、産経政治部ではそういう人たちを「ZOY」と呼んでいます。
「全部・俺が・やった」のローマ字の略で、他愛のない馬鹿話にすぎませんし、われわれ記者も手柄話を聞きながら内心、「違うだろ」と突っ込んでいるわけですが、この手の政治家は派閥領袖クラスにけっこういるものです。ある意味、政治家らしい政治家はみんなそうだという気もしますが……
杜父魚文庫
10241 9月の民主党代表選の隠れた「争点」とは 阿比留瑠比

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